『R-1グランプリ2025』の決勝進出を決めたピン芸人(番組公式HPより)

『R-1グランプリ2025』の決勝進出を決めたピン芸人(番組公式HPより)

「不謹慎」「反省がない」批判のリスク

 クローズドな会見を開いて批判を浴び、辞任に至った港浩一前社長は、2022年の就任時にかつて局の代名詞だった「楽しくなければテレビじゃない」というコンセプトの復活を掲げていました。

 それが今回の騒動に影響を及ぼしたのかはまだわからない一方で、土曜の『新しいカギ』、日曜の『千鳥の鬼レンチャン』という休日の柱になる番組が誕生。さらに『FNS27時間テレビ』も2年連続で手応えを得るなど、業界内では「フジのバラエティが復活しはじめている」という声があがりはじめていました。

 しかし、1月からの騒動によってそのムードに水が差されただけでなく、スポンサーのCM差し替えで制作費の捻出が難しくなるという危機的状況に直面。笑いに特化した番組には「不謹慎」「反省がない」と批判されるリスクも高く、制作・放送すら危ぶまれる事態に陥っています。

 前述したように『FNS27時間テレビ』の放送中止が決まる中、今回の4時間40分生放送は、もしかしたら早くも「今年最大・最長のお笑いゴールデン特番」になってしまうのかもしれません。その意味でもフジテレビは、より多くの笑いを取っておきたいところでしょう。

 そしてもう1つ、お笑い好きたちを驚かせたのは、3月2日に日曜ゴールデン帯で放送されていた『千鳥のクセスゴ』が突然最終回を迎えたこと。『だれかtoなかい』が終了し、情報番組の『Mr.サンデー』が放送拡大されることも含め、「フジテレビは日曜のバラエティをあきらめたのか」という声もあがるほどの大きな改編であることは間違いありません。

生放送のネタ番組で求められる姿勢

 もちろんフジテレビがバラエティをあきらめることはないでしょうし、「笑いのフジテレビ」というイメージそのものも同様。現在は耐えるしかない状況ですが、単発・散発的にでも「笑ってもらうことをあきらめない」という姿勢を見せておくことは重要でしょう。

 制作費の苦しさに加えて自粛を求めるような空気もある今、フジテレビには「これ」という番組を決めて集中投資するような選択が求められています。それが今回の特番連続放送であり、ここで「笑い」「バラエティ」のアピールをしっかりしておきたいところでしょう。

『R-1グランプリ』と『ENGEIグランドスラム』は構成・演出こそまったく異なるものの、ネタに特化した番組という点では同じジャンル。制作サイドにしてみれば、「いかに芸人を前面に押し出してネタの魅力を引き出すサポートができるか」「ふだん舞台で見せているライブでの強さを生放送でも見せられるか」が求められています。

 つまり2つの特番で制作サイドに求められることはシンプルなサポートであり、これは裏を返せば「笑いを取るところは芸人の力に頼ればいい」ということ。無理して「笑いのフジテレビ」をアピールしようとしても、「不適切」「痛々しい」などと言われるリスクが高いだけに、苦しい状況だからこそできる限りのサポートに徹するほうが得策ではないでしょうか。

【木村隆志】

コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月30本前後のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『どーも、NHK』などの批評番組に出演し、番組への情報提供も行っている。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。

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