高下駄を持ち帰り自主練に励んだ小芝風花
「きっと、わっちは一生忘れないよ。とびきりの思い出になったさ」──重ねた手を離した瞬間、ふたりの関係はただの女郎と男衆に戻った。身請けが決まった彼女は「これでよかった」と言い聞かせるように、ゆっくりとまばたきをした。
現在放送中のNHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』で花魁の瀬川を演じている小芝風花(27才)。3月2日放送の第9話では、主演の横浜流星(28才)演じる蔦屋重三郎が彼女への思いに気づいたのもつかの間、お互いの立場が成就を許さず、恋に終止符を打つ様子が描かれた。
「大河ドラマ初出演ながら話数を重ねるたびに、あふれ出る気高さと色気が話題に上がる小芝さんですが、オファーを受けた当初は花魁役を引き受けるかどうか悩んだそうです。彼女は実年齢より幼く見られがちで、今回の大人っぽい役ができるのか自信がなかったようで……」(芸能関係者)
自身のあどけなさを封印したいと考えた彼女は、努力を重ねたという。
「小芝さんは、初回放送では“花の井”として、第8話では襲名した“瀬川”として遊郭を練り歩く、花魁道中を披露しました。役をものにするために、高下駄を持ち帰り、近所の公園や自宅前の廊下で足さばきを特訓するなど、自主練にも熱心に取り組んだとか」(前出・芸能関係者)
同作で所作指導を務める日本舞踊家の花柳寿楽さんが小芝の奮闘を語る。
「たとえば、『あと数度、体の後ろに重心を』と指摘すると、顎が不自然に上に突き出たり、お腹が出た状態になりがちなのですが、彼女はこういった難しい指示でも、つらい体勢ながら必死にチャレンジしてくれます。かつてフィギュアスケートを習っていたと話していたので、体の軸の作り方はお手の物なのでしょう」
かつらと着物、高下駄を合わせると衣装は相当重くなるという。
「その格好で片足ずつ地面に八の字を描きながら歩く『外八文字』を披露するには筋力も必須ですから、筋トレにも励んでいたのでしょう。優雅に見えるよう、極力ゆっくりと歩いてもらっているのですが、それができるのは小芝さんの努力とセンスがあってのことです」(花柳さん)
老若男女が視聴する大河ドラマで遊郭を丁寧に描くことに賛否両論もあった。
「今作の脚本を手がける森下佳子さんは、吉原を取り上げた意味について『女郎も自分たちと同じ人なんだ、と想像できる肥やしにしてほしい』と語っています。親しみやすいキャラクターの小芝さんを起用した理由のひとつも、そこにあるのかもしれません。また、小芝さんは今年の初めに事務所を移籍したばかりですから、心機一転、新しい自分を見せたいという思いもあったのではないでしょうか」(前出・芸能関係者)
最後に前出の花柳さんが小芝の演技の見どころを話す。
「目線の送り方や手の動きを意識してもらっています。直線的に動かすと、やや粗雑な印象になってしまうのですが、手や目配せをゆっくりと丸くすることで色っぽさや優雅さを演出できていると思います」
艶やかさの裏には弛まぬ努力があるようだ。
※女性セブン2025年3月20日号