グリーンやブルーの消毒液で流すタイプもある
驚愕の試算、一日あたりの“たれ流し量”
一日の“たれ流し量”も試算している。1967(昭和42)年度の年間の輸送人員約80億人を一日あたりに換算し、全乗客に対して大便係数0.03、小便係数0.2を乗じてそれぞれの排便機会を算出。平均的な排便量を大便一回に300グラム、小便が一回に350ミリリットルと仮定、全体の“たれ流し量”を計算した。
それによると、一日にウンコが2000トン、オシッコが145万リットル。これだけの汚物が日本中を走り回る列車から吐き出されているというのだ。もはや多いのか少ないのかもわからないが、たぶん途方もない量だ。これだけの汚物によって、日本中の線路が汚染されているのである。
『国鉄糞尿譚』が世に出た時期には、より詳細に糞便による汚染を調べる実験も行なわれている。その結果、踏切付近では列車から25メートル離れたところにまで汚染が及び、トンネル内は汚物でビッシリ。窓や座席にシャーレを置いて細菌を採取してみると、もちろんこちらにもビッシリ。窓から手を突き出してみると、数十万から数百万個もの菌が付着したという。
ただの菌ならまあいいか、などという話ではない。赤痢や結核、腸チフスなどの病原菌でないとは言い切れない。そんな菌が付着した手で握り飯でも食べた日には、いったいどうなることやら。
労組では、沿線で発生した赤痢の集団感染のデータも集めている。そのうち、1955(昭和30)年に発生した余部鉄橋下の集落での集団感染や、1962(昭和37)年にトンネル内を流れる湧き水を飲用している集落での集団感染は、いずれも保健所によって列車から出た細菌が原因と断定されたという。つまり、鉄道はただウンコとオシッコをたれ流すだけでなく、病気までまき散らしていたのだ。
コロナ禍の折、大都市圏から地方にやってきた人をウイルス扱いする、などということがあった。それはまあ、わかりやすいくらいの差別というか、パニック状態だったのであるが、たれ流しの鉄道車両は、正真正銘の病原菌を全国各地にまき散らす装置になっていたのである。
『国鉄糞尿譚』では、鉄道をして「糞尿を散布する機械」と言ってのけているが、実際にはそれ以上の被害が知らず知らずのうちに生じていたのである。
(第2回に続く)
『トイレと鉄道』書影