ビジネス

〈糞尿を散布する機械〉昭和の鉄道トイレの実態「一日に大便2000トン、小便145万リットルを線路に垂れ流し」《トイレと鉄道の歴史》

長距離を走る列車にはトイレが整備されている(写真は横須賀線)

長距離を走る列車にはトイレが整備されている(写真は横須賀線)

 海外旅行者が増え、それに伴って日本の「トイレ文化」にも注目が集まっている。公衆トイレが有料の国も多いなか、無料で、かつ常に清潔が保たれている日本のトイレはもはや“観光スポット”だ。

 しかし、昔から清潔だったわけではない。特に列車内トイレはかつて「黄害」が社会問題化したこともある。

 特急列車や新幹線など、長距離を走る列車にはほとんど設置されているトイレ。今ではにおいや汚れが気になることなどほとんどないが、かつて排泄された汚物はタンクにはためず、長きにわたり線路に巻き散らされていたのだ。1960年代になると、沿線住民や医師などを中心に鉄道のトイレの「たれ流し状態」に批判が巻き起こった。

 今では考えられない話だが、当時は鉄道のトイレ問題は社会問題のひとつだったのだ。いかに深刻なものであったか――。鉄道運行を担う立場にある国鉄職員たちが発行した“ある一冊の小冊子”から、その一端をうかがい知ることができる。

 鉄道関係の取材・執筆を手がけるライターの鼠入昌史氏が、鉄道のトイレ物語を綴った『トイレと鉄道 ウンコと戦ったもうひとつの150年史』(交通新聞社)より、国鉄職員も苦悩した鉄道の“たれ流しの歴史”をお届けする。(同書より一部抜粋して再構成)【全4回の第1回】

 * * *
「糞尿による汚染は、全国民が一億総加害者、総被害者であると言っても差しつかえないほどです」──。

 1968(昭和43)年6月に発行された、『国鉄糞尿譚』の一節である。

『国鉄糞尿譚』は、国鉄労働組合全国施設協議会本部が発行、国労中央執行委員で全国施設協議会議長の秋元貞二が編集した、非売品の小冊子だ。メディア関係者を中心に配布され、たれ流しの列車トイレが沿線ばかりか保線作業を担う職員たちを文字通り“直撃している”ことを指摘し、早急な対策を訴えた。

 その中では、国鉄職員、保線労働者たちの苦しみがつぶさに記されている。

 たとえば、作業員が通過する列車を避けて待っていたら、車内からオシッコが飛んできて顔にかかった、などという生々しいエピソード。こうした体験談とともに、改善の必要性を切々と訴える。

 鉄道車両にトイレが設置されて以来の伝統になっていた「停車中は使用しないでください」のご案内。これにも「誤りのはじまり」と切り込んでいる。

 曰く、駅で停車中に用を足してもらうようにして、各駅にはおまるを抱えた職員を待機させ、糞尿を受け止めればいいじゃないか、という。こうした対策をすることなく走行中に排泄させるということは、大便と小便を跡形もなく飛散させ、人目に付かなくさせる“ごまかし”に過ぎないと喝破する。

関連記事

トピックス

キルト展で三浦百恵さんの作品を見入ったことがある紀子さま(写真左/JMPA)
紀子さま、子育てが落ち着いてご自身の時間の使い方も変化 以前よりも増す“手芸熱”キルト展で三浦百恵さんの作品をじっくりと見入ったことも
女性セブン
ビアンカ・センソリ(カニエのインスタグラムより)
《あられもない姿でローラースケート》カニエ・ウェストの17歳年下妻が公開した新ファッション「アートである可能性も」急浮上
NEWSポストセブン
早くも優勝した竹田麗央
「今のタケダは止められない」米女子ゴルフ“日本人最速優勝”の竹田麗央 見据える岡本綾子以来の「年間女王」への課題は「バミューダ芝」の攻略
NEWSポストセブン
日本人女性が“路上で寝ている動画”が海外メディアで物議を醸している(YouTubeより、現在チャンネルは停止されています)
《日本人女性の“泥酔路上寝”動画》成人向け課金制サイトにも投稿が…「モデルさんを雇って撮影された“仕込み”なのでは」「非常に巧妙」海外拡散を視野か
NEWSポストセブン
被害者の「最上あい」こと佐藤愛里さん(左)と、高野健一容疑者の中学時代の卒業アルバム写真
〈リアルな“貢ぎ履歴”と“経済的困窮”〉「8万円弱の給与を即日引き落とし。口座残高が442円に」女性ライバー“最上あい”を刺殺した高野健一容疑者(42)の通帳記録…動機と関連か【高田馬場・刺殺】
NEWSポストセブン
外国人が驚くという日本の新幹線のトイレ(写真は東北新幹線)
新幹線トイレの汚物抜き取り現場のリアル 遅延が許されない“緊迫の30分間”を完遂させるスゴワザ一部始終
NEWSポストセブン
《歌舞伎町・大久保公園》ガードレールの一部を撤去も終わらない「立ちんぼ」と警察のいたちごっこ「ほとんどがホストにお金をつぎ込んで困窮した人たち」
《歌舞伎町・大久保公園》ガードレールの一部を撤去も終わらない「立ちんぼ」と警察のいたちごっこ「ほとんどがホストにお金をつぎ込んで困窮した人たち」
NEWSポストセブン
2021年に渡米以降、1度も帰国していない
《新生活》小室圭さんと「ゆったりすぎるコート姿」眞子さん、「住宅リフォーム」特化の大型ホームセンターで吟味していたもの
NEWSポストセブン
ライブ配信アプリ「ふわっち」のライバー・“最上あい”こと佐藤愛里さん(Xより)、高野健一容疑者の卒アル写真
〈50まんでおけ?〉高野容疑者が女性ライバー“最上あい”さんに「尽くした理由」、最上さんが夜の街で吐露した「シンママの本音」と「複雑な過去」【高田馬場刺殺事件】
NEWSポストセブン
ご結婚のハードルが下がりつつある愛子さま(2024年10月、佐賀県。撮影/JMPA)
愛子さま“生涯皇族”としての将来に光明 皇族数確保に関する会議で政府関係者が「女性皇族の夫に御用地での同居と皇宮警察による警備を認める」の見解を示す
女性セブン
ライブ配信アプリ「ふわっち」のライバー・“最上あい”こと佐藤愛里さんが刺傷され亡くなった。送検される高野健一容疑者(左・時事通信フォト)(右が佐藤さん、Xより)
〈シンママとして経済的に困窮か〉女性ライバー “最上あい”さん(22)、高野容疑者(42)と出会った頃の「生活事情」 供述した“借金251万円”の裁判資料で判明した「2人の関係」【高田馬場・刺殺事件】
NEWSポストセブン
ライブ配信アプリ「ふわっち」のライバー・最上あいさんが刺傷され亡くなった(左・Xより)
〈オレも愛里なしじゃ生きていけない〉高田馬場刺殺事件・人気ライバー“最上あい”さん(22)と高野健一容疑者の“親密LINE”《裁判資料にあったスクリーンショット》
NEWSポストセブン