外国人が驚くという日本の新幹線のトイレ(写真は東北新幹線)
海外旅行者が増え、それに伴って日本の清潔なトイレにも注目が集まっている。それは列車内トイレでも同様だ。においや汚れが気になることなどほとんどない。いかにして清潔が保たれているのだろうか──。
列車のトイレには、汚物をため込むためのタンクが積まれている。当然タンクにたまった汚物は抜き取らなくてはならないが、その作業が行われている施設の一つが、東京都北区にある東京新幹線車両センターだ。ここでは日夜、“緊迫の30分間”に汚物が処理されているのだという。
鉄道関係の取材・執筆を手がけるライターの鼠入昌史氏が、衛生的で快適な鉄道のトイレはいかにして作れたのか、その物語を綴った『トイレと鉄道 ウンコと戦ったもうひとつの150年史』(交通新聞社)より、新幹線の汚物抜き取り作業の現場をお届けする。(同書より一部抜粋して再構成)【全4回の第2回。第1回を読む】
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関東地区で新幹線の汚物抜き取りや清掃作業などを行なっているのは、JR東日本のグループ会社「JR東日本テクノハートTESSEI(テッセイ)」(以下TESSEI)だ。同社は東京駅や上野駅、また車両基地などにサービスセンターという事業所を置き、そこを拠点に作業を行なっている。
東京新幹線車両センター内にあるのは田端サービスセンターだ。車両基地の構内に設けられている3線の仕業検査線で、汚物の抜き取りはもちろん、トイレや客室内、また新幹線車両の“顔”であるボンネットの清掃などを行なっている。つまり、新幹線車両にとっての“トイレ”が車両基地の仕業検査線、というわけだ。
なお、車内清掃は車両基地だけでなく、列車がそのまま折り返す東京駅でも実施されている。ほんの数分間の折り返し時間であっという間に車内をピカピカに清掃する神ワザは、テレビ番組などでよく取りあげられており、見聞きしたことのある人も多いだろう。アレをやっているのが、TESSEIの従業員たちだ。ただし、汚物の抜き取り設備は駅にはなく、“車両基地限定”の作業だ。
前置きはこれくらいにして、実際に作業の様子を見させてもらおう。
検査線に車両が入っている時間は、おおよそ30分、長くても40分ほどだ。
車両の運用は、列車のダイヤや検査のスケジュールなどを踏まえて綿密に計画されているものだ。もちろんその中には、汚物の抜き取りや清水タンクへの給水も計算されている。汚物がタンクに満タンになってしまってトイレが使えなくなったり、また清水タンクが空っぽになって水が流せなくなったり手が洗えなくなったりしてはマズイ。そのため、タンクが満タンになるまでには必ず汚物抜き取りの設備がある車両基地に入る運用計画になっているという。
そうした中で検査線に入ってくる車両の出庫時間は、全体のダイヤにもかかわってくるので、作業の遅延はわずかでも許されない。おおよそ30分という限られた時間の中で、車内の清掃から汚物の抜き取りまですべての作業を終わらせる。“神ワザ”は何も折り返しを急ぐ駅に限った話ではないということだ。