限られた時間で、見えないところも手を抜かずに、かつ効率的に磨き上げるのが腕の見せどころ(『トイレと鉄道』より)
繁忙期の夜、新幹線のトイレは……
新幹線が営業運転をしている時間帯は朝6時から日付が変わる0時まで。もちろんその間は、車両が絶え間なく基地を出入りする。さらに営業運転をしていない時間帯でも、朝からの営業に備えた準備が続く。だから、田端サービスセンターのTESSEIの従業員たちも、おおむね24時間体制だ。8~16時、14~22時、22~6時の三交代の勤務体制になっている。
興味深いことに、トイレの汚れひとつとっても時間帯によって大きな違いがあるという。汚れがヒドイのは、想像通り週末や繁忙期の夜。お酒を飲んで新幹線に乗り込む人も多くなり、トイレの中に嘔吐物がある、なんてことも珍しくないという。ベテラン作業員が直面したエピソードを聞いてみると……。
「トイレの中に入ったら、壁一面が真っ赤だったことがありました。最初はびっくりするじゃないですか。もしも血だったらただごとじゃない。実際には赤ワインがぶちまけられていただけだったんですが……」(TESSEI担当者)
血でなかったのはまだ良かったが、トイレの中に赤ワインをぶちまけるとんでもない輩がいるということが衝撃的だ。いったい誰が、何の目的で……。が、驚くのはまだ早い。
「便座カバーの裏側に、ビッシリと詰まっていたんです。アレが。どう考えても、ワザとですよね。ムリヤリどうにか詰めたんだと思います。拭いても拭いても奥から奥からアレが出てきて……。スキマに入り込んだものを除去するのが大変で。ニオイもきついですから、消臭剤もたくさん使うんですけど、それでもなかなか……」(TESSEI担当者)
つまり、何者かがウンコをわざわざ便座カバーに塗りたくった、ということだ。さすがに便座カバーにビッシリという例は稀でも、床や壁にべっとりは日常茶飯事らしい。そんな状態のトイレをキレイにしてくれている作業員のみなさんには頭があがらない。
そして、それと同時にそんな奇行に及んでいる人が、客室では平然と座席に座っているのかも、などと考えたら、そこらへんのホラー映画よりもよっぽど怖い。
「トイレがどんな状況なのかは、入ってみないとわからないんですよね。でも、扉を開けて入ったらニオイとかで『ヘンだな』とは気がつきますよ。そういうときは携帯している無線機で連絡し、応援を呼びます。いくら時間をかけてもいいなら別ですが、私たちの仕事は時間が決まっているので、これはひとりではムリだなと思ったらすぐに連絡するようにしています」(TESSEI担当者)
運行中に車掌が車内点検で発見することもある。その場合は、トイレを使用停止にして事前に車両基地のサービスセンターにも連絡が入るという。
(第4回に続く)
車両基地のデッキには清掃用具がまとめて準備されている(『トイレと鉄道』より)