女性トイレには行列ができていることも多い(イメージマート)
この時代、百貨店などのトイレは実にキレイで女性でも安心して用を足すことができるとして、人気が高かったらしい。外出時、仕事の合間などでもわざわざデパートに足を運んで用を足す女性もいたほどだった。主たる顧客である女性をターゲットにサービスを向上し、さらなる集客につなげようとするデパート側の営業努力だ。デパートなどでは男性用の個室よりも、女性用の個室トイレのほうが多く設置されていたという。
さすがにそこまでのサービスは求められないし、1960年前後は女性の社会進出がまだまだ進んでおらず、駅の利用者の多くは男性というのが現実だったのだろう。女性用のトイレが圧倒的に少ないという駅のトイレ設置数の基準は、そうした時代を反映していた。
同書では、国鉄が外部に委託して調査した報告書の内容にも触れている。それによると、「婦人の異常な羞恥感情は年齢にもよる」「女性の尿意の急激なる面は生理的なもの」などといった、およそ現在では考えがたいような文言が並んでいる。時代によるものと言えばそれまでだが、鉄道の現場にあって女性客は明らかに男性よりも待遇が悪かった。同じ運賃を払っていたのに、である。
まだまだ解決途上の「女性トイレ問題」
『トイレット部長』には、女性が駅のトイレの前に長蛇の列を作っているからなんとかせねば、といったことが書かれている。女性トイレの不足が課題として認識されていたことは間違いないようだ。1970年代には若い女性が鉄道であちこちを旅する“アンノン族”がブームになった。国鉄もブームを仕掛けた立役者だけに、その頃にはいくらか改善されていたのだろうか。
現在は、さすがに女性の個室トイレが男性の個室トイレよりも少ないということはなくなっている。少なくとも主要各社の駅トイレの数は、男女ともに同数になっている(男子トイレはあるけれど女子トイレはない、などということはない)。
それでも、男性の小便器と個室を合わせた数と女性の個室トイレの数を比べると、男性用の方が多いところがほとんどだ。いまでもターミナル駅などでは女性トイレの前に長い列ができているのをよく見かける。相模鉄道のように、ラッシュ時の横浜駅でコンコースまで女性の列が伸びるようになったため女性トイレを増設するなど、工夫している事業者もいる。が、全体を見れば抜本的な解決にはほど遠い。
男女のトイレ数問題は、鉄道に限らずさまざまな施設で問題になることが多い。「快適なトイレ環境」を追求してきた鉄道界なのだから、この問題にあっても解決に先鞭をつけて欲しいと思うのだが、いかがだろうか。
(了。第1回を読む)
『トイレと鉄道』書影