デザイナーの亜美伊新氏(撮影/WD)
回転ベッドを用いた部屋などをプロデュースした、デザイナーの亜美伊新氏はこう語る。
「ラブホテルをプロデュースする前は幼稚園や喫茶店、スナックの施設のデザインを手がけていました。幼稚園のトイレの取っ手に動物の絵をつけたら、幼稚園児は飛び跳ねるように喜んだ。これがデザインの原体験でした。いかに非日常空間を作り上げるか、大人がワクワクする場所を必死に考えていました」
亜美伊氏は、カジノから着想を得て、天井にルーレットのデザインが施されている遊び心あふれる部屋などをデザインした。
「日本人の欲望を写す鏡」
1980年代後半からは一転、外観、内装、設備がシンプル化する。
「理由は3つ。1つは建設コストが安いこと。2つ目は1985年に新風営法が施行されてラブホ新設の規制が強化されたこと。3つ目は女性がホテルを選ぶ時代になってきたことです」
ラブホテルが「連れ込む場所」ではなく「カップルで一緒に入る場所」になってきたのだ。変化を促したのが、情報誌「ぴあ関西版」が1994年に発売した「ラブホ」特集だ。扇情的ではなく、実用的な情報に特化した内容は反響を呼び、他の情報誌も追随した。経営者側も女性目線で快適に過ごすための設備、備品、サービスに力を入れた。
21世紀に入ってからのトレンドは「多様化」だ。
「ラブホテルは人々の欲望にいち早く対応する業界です。今や客層は老若男女で、インバウンド客もいますし、女子会での利用も当たり前。ラブホテルは『セックスをする空間』から『セックスもできる空間』へと変化しています。これからも進化し、変化していくでしょう」
【プロフィール】
金益見(きむ・いっきょん)/神戸学院大学人文学部准教授。著書に『ラブホテル進化論』(文春新書)、『性愛空間の文化史』(ミネルヴァ書房)など
亜美伊新(あみい・しん)/1945年生まれ、奈良県出身。日本全国に1600軒のラブホテルを設計・プロデュースしている
※週刊ポスト2025年3月28日・4月4日号