大谷選手が「お金」に無頓着な理由
2023年12月、大谷選手はドジャースと「10年、総額7億ドル(約1050億円。以下、日本円は1ドル=150円で換算)」というスポーツ界最大の巨額契約を交わしました。ただし、年俸7000万ドル(約105億円)のうち、6800万ドル(約102億円)の支払いは先送りとなり、2024年から33年までの10シーズンに支払われる年俸は毎年200万ドル(約3億円)。残りの6億8000万ドル(約1020億円)は10年契約が終了後の2034年から43年の間に分割で支払われるというものでした。
その多くが後払いとはいえ、日本のサラリーマンの生涯賃金(生涯年収)がおよそ2億円ですから、まさに桁違いの高収入と言えます。
2024年の春、大谷選手がハワイ島の高級リゾート地に26億円の別荘を、ロサンゼルス近郊に12億円の自宅をそれぞれ購入したことがニュースになりましたが、大谷選手の懐具合からすれば、妥当な買い物といえるのではないでしょうか。
そもそも、大谷選手は驚くほどお金には無頓着です。
日本ハム時代の大谷選手はこう語っています。
「僕は物欲がないんです。大きな買い物は、表彰式やイベントで着用するためのスーツを買ったくらい」(「Smart FLASH」2022年12月30日)
ポンポンと何十億の不動産を買ってしまうところにも、私は大谷選手の金銭へのこだわりのなさを感じます。必要な買い物はしますが、物への執着がないのです。
前の項目でも書きましたが、お金があることと幸福は必ずしも一致しません。相反していることもめずらしくないのです。
たとえば、資産100億円の投資家は、社会的に見て成功者であることは間違いありません。
しかし、この人が投資に失敗して50億円の損失を出したとしたら、どうでしょうか。相変わらず大金持ちであることに変わりないですが、心の中は後悔と憤懣まで満ち溢れます。少なくともこの投資家は裕福ではあるが、幸福ではないのです。
逆に、50億円の儲けが出たら、今度は100億円ほしくなります。それが実現できないと、やはり不幸感に覆い尽くされるのです。同様に、肩書に執着する人は、もっと魅力的な肩書がほしくなります。たとえ社長という頂点にまで上り詰めても、今度はその肩書きに長期間居座りたくなります。
どこまでいってもキリがない。すべての人間がそうだとは言いませんが、人間の抱く欲望は際限がないのです。つまり、お金や肩書によって幸せを得ようとする限り、その人はいつまでたっても満たされることはありません。お金や肩書きにゴールはないのです。
大谷選手の場合、金銭だけでなく、タイトル獲得や記録への執着もあまり感じられません。それでは彼が一番大事にしていることは何でしょう。
「どれぐらい試合に出られるか、どれぐらい打席に立てるか、どれぐらい登板できるか、というのが一番かなと思います。あとはやれることをやって、残った数字でシーズンが終わった後によかった、悪かったっていうのを自分で振り返ればいいのかなと思っているので。一番は、健康でシーズンを通して出続けること」(『大谷翔平語録』斎藤庸裕〈宝島社〉)
彼にとっては、心身を万全に整えて、実際にフィールドでバットを振ったり、マウンドからボールを投げたりすることがすべてなのです。
ただ野球というスポーツを全力で楽しみたい。
大谷選手の場合、このシンプルなモチベーションが極めて強力です。これにかなうものはないのです。
(第3回に続く)