作品名『風車』 (撮影/奈良岡忠)
「ジオラマで誰もが映画監督になれる」
塗装でプラモに“表情“をつけたら、一歩先にさらなる楽しみがあると金子氏は言う。
「ジオラマ(情景模型)という、もうひとつの雄大で繊細な永遠の世界が広がっているんです」
ジオラマとは展示物(プラモ)と、その周辺環境・背景を立体的に表現したもの。粘土などの素材を駆使して草原や岩場、朽ち果てた家屋などを再現する。
「例えば戦闘機を、自分のアイデアで尾翼が折れかけているように仕上げたとします。その戦闘機を眺めていろんな情景を胸の中に浮かべます。かつて観た戦争映画のワンシーンだったり、それこそ空想を膨らませた自分だけの物語だったり……。オリジナルな世界観をジオラマの中で創造するんです」
プラモの箱に封入された設計図を片手に作り終えた瞬間、もしかしたら、熟練の大人たちにはもう一枚、ヒラヒラと透明な設計図が胸の内に舞い落ちてくるのかもしれない。
「その透明な設計図に、いろんな自分なりの物語を書き込めばいいんです。そこから自分が映画監督のようにセットを作り、カメラアングルも決め、登場人物たちにセリフを語らせ、その情景を心のスクリーンに何度でも映し出すことができれば素敵じゃないですか。お気に入りのプラモを作れれば、誰だって映画監督のように過去の情景や未来の情景だって描き出すことができる。こんな最高な大人の遊び方はなかなかないと思いますね」
【プロフィール】
金子辰也(かねこ・たつや)/1953年9月23日生まれ、新潟県出身。1977年に模型専門誌にジオラマ作品を発表しプロモデラーとしてデビュー。日本における情景模型のあり方を確立したとされ、国内はもとより海外からも高い評価を得ている。
取材・文/佐々木徹
※週刊ポスト2025年3月28日・4月4日号