NHK『放送100年 時代を超えて 3世代が選ぶあの番組』(公式HPより)
ローコストにならざるを得ないフジ
テレビ東京の『出没!アド街ック天国 祝!放送1500回☆アド街の30年BEST30』は、他局が放送しない企画で勝負してきた同局の歩みを物語るような特番。他局が意欲的な特番を手がける中、「これまで積み上げたものを見せる」という等身大の編成スタンスは放送100年の節目にもブレていません。「テレ東の番組は面白い」「テレ東の企画が好き」などと称えられる機会が増えても変わらない編成スタンスはこの日も際立っています。
フジテレビの『みのもんたさん、ありがとう!元祖スポーツ珍プレー好プレー大賞昭和100年SP』は、みのさんの追悼を前面に押し出していますが、スポーツのアーカイブ映像を活用したローコストなコンセプトの特番。スポンサー収入を得られない現在の苦境が表れていますし、しかも各局最長の4時間10分にわたる特番であり、制作費の問題を筆頭に制作現場の難しさを感じさせられます。
そして日本テレビはレギュラーの音楽番組『with MUSIC』の2時間SPを放送。同番組は通常から2時間特番も多いだけに、放送100周年をそれほど意識していない様子がうかがえます。また、『with MUSIC』は思ったほどの成果を得られず、今春から22時台への移動が決定。今回はサザンオールスターズのスペシャルライブを放送するなど、移動前に「何とかしておきたい」という意図を感じさせられます。
今なおスポンサー受けのいいコア層(主に13~49歳)の個人視聴率は同局が優位な立場にいるものの、その数値は下がり、特に土日のバラエティを再整備しているという段階。同時にレギュラー番組は強いが、特番が弱いという同局の特徴もうかがえます。
民放に求められるライブの臨場感
自由でマイペースなNHK、実より名を取るテレビ朝日、バラエティに課題を抱えるTBS、ブレずにわが道をゆくテレビ東京、制作費などの点で苦しいフジテレビ、稼げるレギュラー番組の制作に集中する日本テレビ。放送100年の特番にそれぞれの現在地点が表れていることがわかるのではないでしょうか。
では100年を迎えた“放送”自体の現状はどうなのか。
バラエティもドラマも配信での視聴が増え、スマートテレビなどの普及などもあってますます視聴率獲得が難しくなり、放送収入の低下は避けられない状況が続いています。それでも18日・19日のメジャーリーグ開幕戦が世帯視聴率30%前後を記録するなどコンテンツ次第では数字を獲れることが再確認されたばかり。特にスポーツだけでなく音楽、お笑い賞レースなどを含めたライブコンテンツの強さは放送にとっての希望となっています。
配信のCM収入は放送のそれに遠く及ばないだけに、今なお民放各局にとって視聴率が重要であることは変わっていません。収録放送でも「ネットでつぶやきたくなる」「みんなで一斉に見て盛り上がろう」などとリアルタイム視聴したくなるような臨場感をいかに作っていくのか。
放送100年の節目に選ばれた各特番は「世界初公開」「4時間生放送」など、その点を踏まえた構成・演出が見られるだけに、一夜限りに終わらせず続けていくことが重要でしょう。
【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月30本前後のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『どーも、NHK』などの批評番組に出演し、番組への情報提供も行っている。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。