選抜出場校の発表を見守った大阪学院大高の辻盛英一監督(左)と角田聡校長(産経新聞社)
中3の秋に148キロ「今春入学の逸材」が選んだ進学先とは
根尾昂(現・中日)や藤原恭大(現・千葉ロッテ)らを擁した大阪桐蔭が春夏連覇を達成した2018年を前後して、U−15侍ジャパンをはじめとする中学硬式野球の日本代表を経験した全国の有望中学生が大阪桐蔭に集結していた。しかし、近年は横浜や東海大相模、2022年に全国制覇を達成した仙台育英といった高校野球ヒエラルキーの上位に位置するような名門校に分散する印象がある。
その要因として考えられるのは、大阪桐蔭からプロ野球選手となった選手が、2012年に春夏連覇を牽引した森友哉(現・オリックス)以降、期待値通りの活躍ができていないことではないだろうか。それゆえプロを現実的な目標に掲げる選手が大阪桐蔭以外の強豪校に目を向けることが多くなっているように思えるのだ。
筆者は2年前、中学硬式野球で圧倒的な強さを見せていた東海中央ボーイズの選手たちを取材し、彼らの進路についてレポートした。ビッグ5と呼ばれた投打の主力メンバー5人に大阪桐蔭の西谷監督は声をかけたが、全員が大阪桐蔭には進学せず別の学校に進学した。そのうちのひとりが現在開催中のセンバツで2年生ながら智弁和歌山の正捕手を務める山田凜虎(りとら)であり、横浜高校の一塁手・小野舜友や外野手の江坂佳史である。大阪桐蔭が出場していないセンバツで、出色の活躍を彼らは見せている。
そして、大阪桐蔭や横浜、東海大相模のような甲子園実績こそないものの、辻盛監督が率いる大阪学院大高もスカウティングの勝者だ。今春には身長は171cmと小柄ながら、中3の秋には148キロを記録した世代ナンバーワンの呼び声が高い北海道の15歳が、数多の強豪・名門の誘いを蹴って大阪学院を選択し、3月25日から練習に参加している。高知の私立高知中からも、有望選手が系列の高知高校には進学せず、大阪学院大高に。辻盛監督が続ける。
「以前ならば大阪桐蔭を選んでいたような選手が、うちを選んでもらえることが増えてきているように思います。選んでくれた理由を訊くと、『大阪桐蔭なら甲子園には行けるかもしれないけど、プロには行けないと思いました』と答えた子もいます。勧誘する時に、投手であれば酷使しないことを約束しますし、甲子園に行くことよりも、社会人やプロで活躍することが目的だと伝えます。それに寮もうちはひとり部屋ですし、携帯電話の使用も自由です。そういう寮環境も大阪桐蔭との違いですし、選んでもらえる要因かもしれません」
大阪の梅田から阪急電車に乗って20分あまり――。正雀駅から徒歩数分の大阪学院グラウンドを一度でも訪れたら誰しもその充実した練習施設に驚くはずだ。同校が選ばれる理由がそこにある。
■取材・文/柳川悠二(ノンフィクションライター)