大久保公園付近で”客待ち”をする女性たち(イメージ)

大久保公園付近で”客待ち”をする女性たち(イメージ)

「また風俗とか考えちゃうかも」

 部屋には、空のペットボトルや、中身が詰まったごみ袋が5、6個散乱していた。長野県内のアパートで人暮らしをしている初音さん(29、仮名)の部屋を、一度だけ訪ねた時のことだ。「ごみ屋敷になってます」。初音さんは苦笑しながら言った。

 子どもの頃から片付けが苦手だった。クローゼットから出した衣類は出しっ放し。散らかった物の何を捨て、何を残したらいいのか、優先順位をつけられずに後回しにしてしまう。学校生活で課題を与えられても、途中で他のことに注意が向き、投げ出してしまう。そのたびに自分にうんざりした。

「発達障害なんじゃないの?」。1年半ほど前、初音さんの部屋を訪れた、当時交際していた男性に言われた。医療機関を訪ね、注意欠如・多動症の診断を受けた。初音さんは、「昼間の仕事を続けられなかったのも、『発達さん』(=発達障害者)なのが原因かもしれない」と思い始めた。

 高校では同級生との人間関係が原因で不登校がちになり、1年留年して卒業。アパレル業界に就職したが、同僚と話が合わず1か月足らずで辞めた。工場のライン作業、ホテルの受付、小売店の店員など職を転々とした。定時出社や就業時間の決まりが苦しく、遅刻が重なった。いずれも半年以上は続かなかった。

 21歳の時に預金が底をついた。財布の中身は1円玉が2 枚。稼ぐには「夜の仕事しかない」と思い、キャバクラで働き始めた。だが更衣室で働いている女の子が悪口を言い合うのを聞き、「自分も悪口を言われているのではないか」と怖くなった。半年足らずで店を辞めた。

 上半身裸で接客するキャバクラでも働いたが、女の子同士の人間関係に悩み、接客中に過呼吸になった。駆け込んだ病院でうつ病と診断された。気持ちの余裕もなくなった。男性客の自宅や宿泊先のホテルに出向き、性的サービスを提供する派遣型風俗店(デリヘル)に入店した。23歳だった。

 デリヘルの待機部屋は個室で、他の女の子と顔を合わせることはない。男性と一対一の関係で済むのは気が楽だった。出勤時間の融通が利くのも性に合った。初めて長く働き続けることができ、収入も安定した。

 密室で客と2人きりになるデリヘルは、性暴力や盗撮などの危険と隣り合わせだ。清潔感がない客、しつこく個人情報を聞こうとする客に嫌気が差すこともあったが、「稼ぐにはやるしかない」と自分に言い聞かせた。

 20代後半になると指名客が減った。一昨年、1時間のサービスに男性客が1万円を店側に支払う「激安店」に移った。だが、体力的につらくなった。「そろそろ潮時」と考えるようになった。

 記者が初音さんに喫茶店で会ったのは2023年春。初音さんはデリヘルを辞めた直後で、明るく丁寧な言葉遣いでこれまでの人生を話してくれた。

「デリヘルで忍耐力がつきましたから、『昼職』(風俗以外の昼間の仕事)を頑張ろうと思って」。笑顔でそう言った。昼職に慣れて一息つくであろう、4月下旬に次回の取材の約束をして別れた。

 約束の日の前日、初音さんからLINEのメッセージがスマートフォンに届いた。体調が悪いとあり、「お会いできそうになくて申し訳ございません。5月に入ったらまた連絡さしあげます!」とつづられていた。初音さんを追い詰めないように回復を待つ旨を返信したが、以後連絡がつかなくなった。

 取材した日、初音さんが一瞬、不安げにつぶやいた言葉を思い出した。「ふつうの仕事が向いていないってなったら、また風俗とか考えちゃうかもしれません」。困窮する女性を支援するNPO法人 「ぱっぷす」のことを思い付いた。回復を願う言葉に、ぱっぷすの連絡先を添えてLINEを返した。

第3回につづく)

『ルポ「ふつう」という檻』(岩波書店)

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