『傷だらけの天使』(日本テレビ系・1974年10月~1975年3月)が放送されてから50年が経つ
ドラム缶の中に入った伝説の最終話
全26話の番組の中で最高視聴率19.9%を記録したのが、最終話の「祭りのあとにさすらいの日々を」である。
修が、風邪で急死した亨の死体をドラム缶に入れ、夢の島に捨てて逃げるというラストシーンは、強烈な印象を残した。
「あのとき、僕は実際にドラム缶の中に入っていたんです。リヤカーで運ばれるときもずっと。タオルで顔は隠れていたけど、僕が入るのが当たり前だろうと思って」
このラストシーンには、工藤栄一監督が考えたもうひとつの案があった。「修がドラム缶に火を付けて火葬しようとしたら、亨が燃えながら立ち上がって歩いてくる、というアイデアだったけど、さすがにやり過ぎと思って止めたそうです(笑)」
ラストシーンをリアルタイムで観た私は、可愛がっていた弟分をゴミの中に捨てる修に腹が立ったことを覚えている。
「僕はひどいとは思えないんですよ。修の気持ちが分かるから。若い時って手続きが嫌いですよね。死体があれば警察に調べられたり、届け出とか、諸々の手続きが必要になるでしょ。そんなことに関わりたくないものね。それは亨も同じで、やはり手続きが苦手だろうし、これまでの二人の関係を考えたら、『しょうがねえな、兄貴は』とか愚痴は言っても、修を恨んだりはしないと思うんです」
最終話でもうひとつ、演じたあとで水谷が気付いたことがある。
「僕、というか亨は童貞だったんですよ。ドラマの中で何回か女性と同衾するシーンがあったけど、すべて成立していなかったんですね。兄貴の修が死んだ亨の身体にベタベタとヌード写真を張り付けるでしょ。そのとき、ああ、俺は童貞だったのかと、本当に最後の最後で知りました(笑)」
(第3回につづく)
【プロフィール】
水谷豊(みずたに・ゆたか)/1952年生まれ、北海道出身。代表作は『男たちの旅路』、『傷だらけの天使』、『熱中時代・教師編』など多数。2000年から主演するドラマ『相棒』は23シリーズも続く人気作に。
撮影/松田忠雄
※週刊ポスト2025年4月18・25日号