小学生のうちから…
そんな桐蔭の3年生に、意外な経歴の逸材がいる。宮崎・聖心ウルスラ学園の系列中学で軟式野球に励んでいた189cm右腕の森陽樹だ。宮崎出身の私は、選手勧誘に苦戦する大阪桐蔭が宮崎の軟式出身選手にまでスカウトの手を広げたのかと驚いた。森は1年秋に公式戦デビューを果たすと、昨夏までに2度の甲子園を経験。間違いなく世代ナンバーワン投手だったが、身体が大きく成長した昨秋は制球に苦しみ、今春のセンバツを逃した。同郷の森に肩入れする私は彼の復調こそ大阪桐蔭復権のカギを握ると見る。
スカウティングとは数年先を見据えたチーム作りだ。選手の獲得には、小野が一番に声をかけてくれた横浜を選んだように「どのタイミングで声をかけるか」が重要であり、もっといえば、「いつから見ているか」も縁結びの明暗をわける。横浜で選手勧誘を担当する部長の高山大輝は小学生の動向にも注目する。
「(小学生のNPB12球団)ジュニアトーナメントに足を運ぶこともあります。それに硬式、軟式も問いません。(エースの奥村と2枚看板を成す2年生の)織田翔希のように、軟式にも素晴らしい選手はいますから」
強豪校のスカウト担当が指標とするのは、小学生時代の12球団ジュニアトーナメント出場歴に加え、中学硬式野球の日本代表歴、とりわけ中学生のトップオブトップが集うU-15侍ジャパン代表は注目銘柄だ。現在の高校3年生が中学3年生だった3年前の侍リストには、センバツ準優勝の智弁和歌山のWエースである渡邉颯人と宮口龍斗、そして中堅手で1番を打つ藤田一波の名前もある。同校もスカウティングの勝ち組から、センバツの勝ち組へと昇華した。
全国制覇の経験もある強豪校のスカウト担当教員が話す。
「私学には広報部のような部署があり、生徒募集の名目として、経費を使って選手のスカウティングに奔走します。いま、我々が勧誘している中学3年生が高校3年生となる年に、センバツが100回の記念大会を迎えます。夏の100回大会(2018年)と同じく、各校が力を入れる世代です」
今春も、横浜には兵庫・明石ボーイズ出身で、U-15W杯で世界一&MVPに輝いた注目遊撃手が入学。大阪桐蔭にも東京城南ボーイズの大型左腕が進学した。2年後、3年後の甲子園は、すでに始まっている。
【プロフィール】
柳川悠二(やながわ・ゆうじ)/1976年、宮崎県生まれ。法政大学在学中からスポーツ取材を開始し、主にスポーツ総合誌、週刊誌に寄稿。2016年に『永遠のPL学園』で第23回小学館ノンフィクション大賞を受賞。他の著書に『甲子園と令和の怪物』がある。
※週刊ポスト2025年4月18・25日号