靖国参拝などについてもきいた
高市総理なら日米首脳会談にどう臨むのか
──日米首脳会談も、「高市首相」ならどうしたか。
「大手メディアは2月の首脳会談を『大成功』と報じていましたが、正直に申し上げますと違和感を覚えました。米国に対してたくさんの約束をしましたが、切らなくていいカードを切りすぎたな、と。たとえば、アラスカの天然ガス開発は、米国から天然ガスを買うだけなら、日本のサプライチェーン強化に資するのですが、開発段階からの参加は、莫大なコストがかかるし、リスクも大きすぎます。あの案件は、温存して、最後に切るべきカードでした」
──なるほど。
「1兆ドルの対米投資についても、あくまで民間企業の判断です。仮に、日本からの投資が増えても、米国の対日経常収支は赤字になる。その点にも留意が必要なのですが、『赤字』という言葉が大嫌いなトランプ大統領が正しく理解しておられるとよいのですが……。私は、米国相手に数字を出して約束することは、慎重であるべきだと思っています。1980年代の日米半導体協定【※注】で、日本は痛い目にあっていますから」
【※注/半導体市場における日本のシェアが高かったことに伴う日米貿易摩擦を解決するために締結された貿易協定。これにより日本の半導体開発の勢いが衰え、国際競争力を失ったとされている】
──日本製鉄のUSスチール買収計画も、「買収ではなく投資に」と合意して、日本が交渉に成功したとの評価がありますが、そんな単純な話でしょうか?
「あれは、日鉄がかわいそうすぎて、言葉も出ませんよ。だって、買収して経営権を取ってから、日本の優れた技術を注ぎ込んで高品質の鉄をつくるはずが、(日米合意の『投資』の意図が)直接投資ではなくて、証券投資ならありえませんよ【※注】。
【※注/海外企業を買収したりするなど経営権の取得を目的としたものが「直接投資」、利益を得るために株式や債券を購入するなど資産運用を目的としたものが「証券投資」】
かといって、完全に手を引くとなると、日鉄はUSスチール側から莫大な賠償金を請求されかねません。そこで、私は総理に同行した各省の幹部に『日本政府は、日鉄を守るために戦うのか』と確認してみたのですが、『民間どうしの話だから、見守るだけです』という返事でした。向こうは大統領が前面に立って戦いを仕掛けてきているのに」
(第3回に続く)
【プロフィール】
常井健一(とこい・けんいち)/1979年、茨城県生まれ。ライブドア、朝日新聞出版を経て、フリーに。著書『無敗の男』(文藝春秋)が大宅賞候補になるなど、数々の独占告白を手掛け、粘り強い政界取材に定評がある。ラジオ番組『長野智子アップデート』(文化放送)にレギュラー出演中。
撮影/田中麻以
※週刊ポスト2025年5月2日号