『続・続・最後から二番目の恋』は11年ぶりの続編(番組公式HPより)
最年長であり、30年ぶりの月9主演
次になぜこれまでの木曜劇場から月9に移動したのか。実質的に大きいのは、ターゲット層の上限アップと、月9と木曜劇場の戦略が変わったことの2つ。
これまでドラマのターゲット層はスポンサー受けのいいコア層(主に13~49歳)に偏りがちでしたが、昨年あたりから「上限を50代以上にも広げる」という動きが局を越えてありました。また、近年の月9は「若年層向けに振り切らず、幅広い年齢層を集めて安定した数字を獲りたい」という方針が見られるだけに、小泉さんと中井さんの“アラ還”ダブル主演に違和感はありません。
一方の木曜劇場はこのところ、ニセ家族と選挙を扱った『日本一の最低男 ※私の家族はニセモノだった』、“托卵”がテーマの『わたしの宝物』、井戸端会議で事件解決する『ギークス~警察署の変人たち~』。今春も昭和11年が舞台のピュアなラブコメ『波うららかに、めおと日和』が編成されたように、思い切ったコンセプトを採用するチャレンジ枠のような戦略が見られ、すでに支持を得た『最後から二番目の恋』シリーズを放送する必然性は薄れています。
さらにそれ以上の必然性を感じさせられるのは、小泉さんと中井さんがちょうど30年前の1995年に放送された『まだ恋は始まらない』でも月9でダブル主演を務めていたこと。今回の続々編は単に2人が「月9の最年長主演」というだけでなく、「30年のアニバーサリー」という意味合いもあるのです。
しかも驚くべきは、どちらの作品も岡田惠和さんが脚本を手がけること。30年にわたる作り手と俳優の信頼関係や絆がうかがえますし、「もう1度この3人で月9をやってみたら面白そう」という遊び心にも見えます。いずれにしても往年の月9ファンを楽しませる移動になりました。
今春の続々編はこのような「因縁」と呼びたくなるような背景があってこその好発進でもあり、今後の期待感も募りますが、これまでと変わらないスローなテンポで物語は進み、千明と和平の関係性もあいまいなままではないでしょうか。
続々編の第1話でコロナ感染した千明に和平が「約束したじゃないですか。どんな形であれ、ずっと一緒に生きていくんでしょ。私とあなたは」と声をかけるシーンがありました。たとえば、もし千明と和平の関係が一気に進んで結婚したら、このような心地よい関係性が変わるかもしれない上に、リアリティや共感が損なわれてしまうかもしれません。
それどころかシリーズが終わってしまうかもしれない以上、多くの視聴者はそのような展開を望んでいないでしょう。少なくとも「今春の続々編で終わらず、また来年以降の月9で続々々編を放送してほしい」という視聴者が多い稀有な作品であることは間違いなさそうです。
【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月30本前後のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『どーも、NHK』などの批評番組に出演し、番組への情報提供も行っている。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。