東京拘置所内の刑場(法務省/AP/AFLO)
判決が書けなくて仕事をためる
以上のような困難はあるものの、それでも事件が次から次へとやってくるのでてきぱきと右から左へ事件処理していかないとたまります。そこが裁判官の悩ましいところ、現実的な困難ですね。審理が終わった以上判決を書かなくてはいけない。でも、そこで決断力がなかったり、画期的判決(同種訴訟の中で初めての憲法違反を言うとか)を書くかどうかで悩んだりしていると事件がたまってしまう。右から左へ行くというのは普通のやり方。ある事件で止まってしまい流れが滞るとこの仕事は続けていられないのです。
以上のような過程で右から左へ判決が書けない場合があります。当然のごとく、審理は終わったけれども、まだ判決していないという事件が増えます。あいつはためたといわれるんですけども、そうなると人事上の評価が下がるのはもちろん、当事者にも迷惑をかけます。おおよそ1か月で平均30件くらいの裁判がまわされる。裁判官はのんびりしているとすぐに事件がたまります。3か月で100件近くになるのですから、これは文字通り「雪だるま式」ですね。それだけ事件をため込んだ裁判官は、消費者金融で借金することの恐さが身に染みているかもしれません。
あまりためると当事者も文句を言いにきます。書記官室へ怒鳴り込んで「何で判決を出さないんだ」とか言ってくる当事者もいます。そうなると、裁判官も本当に追い詰められてしまいます。その結果どうしようもなくなると辞任ということになります。この場合はあまり評判にならないように、目立たずに辞める場合が普通かな。
【プロフィール】
井上 薫(いのうえ・かおる)/1954年生まれ。東京都出身。東京大学理学部化学科卒、同修士課程修了。司法試験合格後、判事補を経て1996年判事任官。2006年退官し、2007年弁護士登録。著書に『司法のしゃべりすぎ』『狂った裁判官』『網羅漢詩三百首』など。
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東京拘置所