総務省統計局が発表している「産業小分類別事業所数及び従業者数」(平成21年経済センサス-基礎調査)によると、国内の喫茶店の数は7万7036軒。そのうちの多くを占めるのがセルフスタイルのコーヒーショップで、国内外のブランドがひしめいている。海外ブランドのコーヒーショップ代表格といえば、シアトル発・エスプレッソを中心とした商品展開で世界でも多くの店舗数を誇る、スターバックスを思い浮かべる人が多いだろう。
しかしエスプレッソの本場といえば、イタリア。そのイタリアで業務用コーヒーのNo.1ブランドである、イリカフェ社(以下、illy)も2003年日本に店舗進出している。日本ではまだ一部の感度の高い人やコーヒー好きに支持される、いわば“知る人ぞ知る”といった認知度ではあるが、本国イタリアでは同業各社に一目置かれるブランドであり、前会長のエルネスト・イリーは「コーヒー豆の父」「コーヒーの伝道師」とも呼ばれる存在だ。
世界中のコーヒー豆の中から、高品質なアラビカ種豆だけを焙煎ロットごとに9種類選定し、飲み方はバリエーション豊富だけれど、ブレンドは1種類のみ。機能美を追求したアイテムのデザイン――など、illyのこだわりや日本での展開について、イリカフェ社の大嶌正義さんと缶コーヒー『イリー イッシモ』を製造・販売する日本コカ・コーラの渡辺康範さんに、ジョルジオ・アルマーニの店舗設計を担当するClaudio Silvestrin氏がデザインを監修したillyの日本1号店「illy bar 霞が関店」で、話を聞いた。
「ロースター(焙煎業者)であるillyは、創業者のフランチェスコ・イリーがハンガリーからイタリアに渡り、そのまま移住。1933年にコーヒー関連企業や研究施設の集まる、イタリア北東部のトリエステでスタートしました。
創業者であるフランチェスコ・イリーが業務用エスプレッソマシンの原型となる『イレッタ』を開発したことをはじめ、illyはローストした豆の酸化を防ぐための窒素ガス充填による加圧式保存法やペーパーポッドの考案といった、コーヒーにおける重要な発明をした企業でもあるんです」(大嶌さん)
そうした発明もブランドのポジションを形成している理由のひとつだが、illyは今でこそ一般的になったCSRやフェアトレードを昔から実践している企業であることも、大きな要因だ。「品質は財源である」というエルネスト・イリーの元、1991年に「ブラジルアワード」を設立。多くの技術者を派遣して栽培や販売の指導を行なうだけでなく、優勝者への報奨金や上位50社の全生産品買い取りなど、ブラジルコーヒーの品質向上に大きな貢献をしている。
「フェアトレードなどの取り組みについて、よく聞かれるのですが、illyにとっては初めから当たり前にやっていること。“カップの中の最高の一杯”を実現するには、ブラジルやコロンビアでの豆の生産から考えるのは自然なことで、現地の農業主さんと一緒に取り組み、深い関係性を築いています。
品質へのこだわりという点では、コーヒーに害を与えるものを徹底的に排除するため、生豆から出荷までに125種類ものチェックをします。この品質管理システムを確立した三代目・現会長兼CEOのアンドレア・イリーは、日本の大手メーカーなどから品質管理手法を学びました。アンドレアは大の親日家で、そのほか日本の影響といえば、250gの缶は日本の茶筒の形状からヒントを得たんですよ」(大嶌さん)