いまどき外国人社長が誕生する日本企業は珍しくない。だが、創業から230年以上の歴史を持ち、つい4年前まで一族支配だった老舗企業が突然、ライバルメーカーから外国人をヘッドハンティングして社長に据えるのだから、仰天人事の域を超えている。
製薬業界最大手の武田薬品工業である。予定では2014年6月に英製薬大手のグラクソ・スミスクライン(GSK)のクリストフ・ウェバー氏(47歳)が社長兼最高執行責任者(COO)に就任、翌年には最高経営責任者(CEO)に昇格する人事まで決まっているという。
「真のグローバル競争に勝つために必要な人材。社長選びには1年以上をかけた」と説明した武田薬品だが、あまりにも強引で性急な人事に不信感を募らせる武田関係者も多い。
武田薬品が外国人任せの経営に舵を切ろうとしている背景について、経済誌『月刊BOSS』編集長の関慎夫氏が解説する。
「最近の大手製薬会社は、自分たちで新薬を開発するよりも、世界中の有望な製薬メーカーやバイオベンチャーに目を付け、抱え込むことで業績を上げるのがトレンドになっています。武田も例外ではなく、米・英のバイオベンチャーやスイスの製薬会社など大型のM&A(買収・合併)を繰り返してきました。
しかし、買収企業のガバナンス(統治)は必ずしも機能しておらず、その強化を日本人に求めようとしたけれど無理だったということでしょう。ただでさえ製薬業界は主力医薬品の特許切れで収益減に喘ぐ中、経営陣も含めてグローバルに活躍できる人材の登用は待ったなしなのです」
確かにいまの武田薬品の海外事業比率は5割超、従業員は全世界に2万人以上が散らばり、そのうち日本人は9000人。つまり、半分以上が外国人従業員の働きによって成り立っている。
だが、外国人の多いグローバル企業だからといって、トップに外国人を据えれば必ず成功するとは限らない。前出の関氏がいう。
「武田薬品の場合は、日産(カルロス・ゴーン氏)やソニー(ハワード・ストリンガー氏)のように業績悪化やドメスティックなしがらみでやむなく外国人経営者を起用したケースとは少し違いますが、企業を成長させて利益を生む“プロ経営者”でなければ風当たりは強くなると思います。
いくら外国人比率が高いといっても、日本資本で株主は日本人のほうが多いことに変わりありませんからね」