売れて数十万個という化粧下地市場において、クレンジング料をつかわずにお湯だけでメークを落とせる『フルメーク ウォッシャブル ベース』(資生堂)が店頭発売開始から2か月で200万個を売る大ヒット商品となっている。クレンジングが売れなくなるリスク覚悟で開発された背景について、作家の山下柚実氏が報告する。
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日常的に化粧するのは女だけ、と思い込むなかれ。世の中には化粧が仕事という男子もいる。
べっとりと白塗りの肌。ピンク色の目じり。真っ赤なくちびる。厚い白化粧をした歌舞伎役者が、洗面器の前に立ちおもむろに顔を洗い始める。あら不思議。お湯で何回かすすぐと、みるみる白塗りが落ちていくではないか。地肌の色がのぞいたかと思うと、あっという間にすっぴん。劇的な変化は、マジックを見ているみたい。
実はこの映像、資生堂『フルメーク ウォッシャブル ベース』の効果を伝えるためのドキュメント映像なのだ(ウェブで公開中)。
「さすがに歌舞伎化粧となるとお湯だけできれいに落ちるか、内心ひやひやしましたよ」と同社コンシューマーマーケティング室・久米一徳氏(50)は告白する。資生堂の社員ですら歌舞伎化粧落としの成果には驚いた。
世界初、重ねたメークがお湯で落とせる化粧下地『フルメーク ウォッシャブル ベース(以下FWB)』。2013年2月に店頭販売をスタートし、2か月で200万個を売り上げ、爆発的ヒットと注目を浴びた。
化粧下地とはファンデーションなどをする前に肌に塗るクリームで、それによってメークのりや化粧持ちがよくなる。売れて数十万個という化粧下地市場において「クレンジング料をまったく使わずにメークが落とせる」という画期的な機能に女たちが飛びついた。
この商品は、ある女子社員の発案から始まったという。
「仕事が忙しくて家に帰ったらすぐリラックスしたい。メークをお湯だけで落とせたら楽ではないか、という素朴なアイディアが最初でした」
その着想は面白い、と社内で評価された。消費者に調査してみると、「化粧を落とさずに寝てしまったことがある」という女性が41%、「その頻度は1週間に1回以上」と答えた人がなんと21%という結果が出た。
そう、化粧を落とすという行為は女性にとって最も面倒であり回避したい作業だった。だが、いったいどうしたらお湯で簡単にメークを流せるのか。本当に実現可能なのか。
「具体的な方法については、一から探っていきました。研究所で蓄積してきた技術を駆使し試行錯誤の連続でした」