目指したのは、約40度のお湯だけに反応する「ヴェールアクションポリマー」という物質の開発だ。

「お湯だけに反応するセンサー分子を資生堂独自のメッシュ構造の皮膜の中に組み込む、という考え方です。これを下地に配合してその上にメークをするわけです。約40度のお湯に触れると、ヴェールアクションポリマーの中のセンサー分子が反応して浮き上がることで、重ねたメークが落ちるという原理です」

 普通なら、「化粧を楽に落とす方法」を考える場合、従来のクレンジング剤や洗浄剤の機能を高めたり改善したりする方向にいくのが自然だ。いったいなぜ、開発チームはまったく別のベクトルを着想できたのでしょう?

「リケ女でした」と久米氏は言った。

「最初に着想した社員は、実は元研究職の理系女子。その彼女がマーケティング部門に移ってきて多忙を極めたことから、アイディアが立ちあがりました。消費者のニーズと、分子レベルでの研究知識とが、うまくつながったのです」

 FWBを塗ると、たしかに肌の上にヴェールのような膜ができる。これが実に軽やかにすっと伸びて気持ちいい。

「メークを落とすのはもちろんのこと、心地よい使用感、化粧下地としての機能や安全性といった複数の機能を十分に満たす商品を開発するために、2年という時間がかかりました」

 いくら理屈で説明されても、体験しなければ本当に落ちるのかな、という疑問は残る。そこで同社は全国各地で体験イベントを開催している。

「お客さまには自分の肌で実感していだたくのが一番。歌舞伎化粧の映像を制作したのも、実感を通して商品の特性を伝えたかったからです」

※SAPIO2014年3月号

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