例の作曲家の件から、「ゴーストライター」という仕事に注目が集まっている。複数の「ゴーストライター」経験を持つフリー・ライター神田憲行氏が、「ゴースト作法」について語った。
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「ゴーストライター」という響きにいかがしさ、胡散臭さを感じる人が少なくない。しかし全てのがゴーストライターが不誠実な仕事をしているわけではない。そこで私の「ゴースト作法」について紹介しよう。もちろんこれは私だけのやり方に過ぎないことは留意していただきたい。
【1】まずゴーストライティングの依頼は出版社からあります。原著者(本に著者として名前が出る人。ゴースト世界ではこう呼びます)から依頼されたことは私はありません。今回の作曲家のように版元が知らないで秘密裏にゴーストが仕事をしていたケースは聞いたことがありません。
【2】依頼があると、引き受ける前に私はまず原著者の方と「お見合い」させていただきます。原著者のこの本に賭ける意気込みなどを確認させていただくためと、原著者の方に私でいいのか確認してもらうためです。私はプロフィールや自著などを持参します。
大変生意気な作業なんですが、後述するように執筆用のインタビューなど原著者に多大な時間をさいてもらう必要があるので、「やる気」を確認することは外せません。また私の人となり、プロフィールを確認してもらうことも重要です。以前、風俗で働いている原著者の女性から「ライターは女性が良い」と断られた経験があります。
「お見合い」の場では原著者の方から「自分の本なのに他人に書いてもらっていいのか」という、まさしくゴーストライター制度に対するみなさんが感じられるような疑問を持つ人もいます。
対する私の説明は、
・内容は原著者のあなたが決めることであり、私はあなたが喋ったことを文字にしているに過ぎない。
・そのためインタビューはかなりしっかり応じてもらう。
・ゲラもしっかり見てもらう。原著者が責任持てない本を編集者や私が作れない。
などです。
【3】仕事を引き受けることを決めると、編集者と印税の取り決めをします。
【4】だいたいの章立てを編集者が作成し、それを原著者と私の3人で検討します。これは大まかな設計図のようなもので、絶対的なものではありませんが、以降のインタビューはこの流れに沿って行われます。またこのとき、原著者が持っている資料をお預かりします。
【5】章立て、資料、類書などを読んで、私が「まえがき」を書きます。内容はこの本がこれから述べようとしていること、どんな人に読んでほしいかなど。原著者が講演しているイメージで書いていきます。私はこれを「施政方針演説」と呼んで、編集者、原著者に読んでもらいます。
目的は意識を共有すること、私の筆力を原著者に改めて感じ取っていただくこと、そして同じテンションでノリを作ることです。「施政方針演説」は書いたり書かなかったりなんですが、すっと楽に書けたときは売れる本になります。また書いたとしても実際の本に流用するとは限りません。あくまで内部的な文書として書いています。