【6】インタビューに入ります。だいたい私の場合は総計で20時間前後でしょうか。5時間ほどで書かれるライターもいるそうですが、私にはとてもできない芸当です。
インタビューで大切なのは、著者の立場を敷衍しながら、読者目線を忘れないことです。著者が「言いたい主張」だけでなく「読者が知りたい情報」を盛り込むこと。また有力な反論や違う見方がすでにある場合、それについて著者の見解も確認します。その見解に納得出来ないときは、さらに質問を重ねて、ちょっとした言い合いになることも珍しくありません。
プロのライターでない人は多角的な視点を持つことがなかなか難しい。ここはゴーストライターが雇われる理由のひとつです。
【7】インタビューを元に実際の執筆に取りかかります。できるだけ原著者の言葉遣いを尊重します。それが「味」にもつながると考えるからです。
また原著者がうろ覚えの情報も、ひとつひとつ確認していきます。この作業が膨大で煩雑で、ここもゴーストライターが雇われる理由のひとつです。
【8】ゲラが出て原著者のチェックが入ります。私も見ますが、基本的に事実の確認が中心になります。言葉の言い回しや表現は原著者と編集者の判断に任せます。
原著者さんによっては、このゲラを大変丁寧にみて「インタビューのときはこのエピソードを話したけれど、もっといいのが見つかったから」と鉛筆で大量に書き込んでくるときがあります。直しは大変ですが、原著者さんの姿勢がみえて、私も編集者も感激する瞬間です。
ここまで読んだ人は疑問に思うでしょう。「そんな手間暇かけるなら、その原著者が直接書けばいいのに」。書けないのです。短い寄稿の経験ある人でも、原稿用紙で200枚から300枚を筋道立てて、商品化できる文章を本業をこなしながら数ヶ月で書くのは至難の業です。思いついたときに好きなように書けるブログとはだいぶ違う作業なのです。
また「共著ではいけないのか」と疑問を持つ人もいます。しかしその原著者が本を著すに至った功績について、私は1ミリも貢献していないわけです。ただ話をまとめた人間が共著者として肩を並べるのは、私は抵抗があります。
私がゴーストライターを引き受ける理由はさまざまなのですが、いちばん大きな理由は「その原著者が原稿を書けないために、その人の知見が埋もれてしまうのは惜しいと感じる」からです。どんなライターでも「自分が聞いたオモロイ話を世の中に広めたい」「自分が出会った面白い人を世の中に紹介したい」という原始的な欲求があるはずです。ゴーストライターという仕事は胡散臭く見えるようで、このライターの欲求に添うものです。