1兆円の売上高を突破し、国内のファッション企業では敵なしの「ユニクロ」。カジュアル衣料で圧倒的なブランド力を誇り、国内店舗数は856(昨年11月末時点)を数えるまでになった。
だが、既存店の売上高は2年連続で前年を下回るなど、国内市場は“行き詰まり”も見え始めている。そこで、ユニクロを展開するファーストリティリング(以下、ファストリ)が注力しているのが海外事業の拡大だ。
すでに中国・香港・台湾など中華圏では海外512店舗中、6割にあたる312店をオープンさせ、ユニクロブランド知名度は十分に高まっている。
アジアでの好調ぶりに反して、苦戦しているのが米国市場である。現在、ニューヨーク市内を中心に17店舗を展開しているが、赤字続きとなっている。
今年は買収して傘下に収めている米高級婦人服のセオリーとともにニューヨークに「R&D(研究・開発)センター」を設立する計画だというが、商品力を高めて米国での地位を強固にするためのさらなるM&Aにも余念がない。
2月下旬、海外メディアを発信源にファストリが米衣料小売りのJ Crew(ジェイクルー)グループを50億ドル(約5100億円)で買収するのではないかという報道が駆け巡った。
Jクル―の商品といえば、日本ではレナウンが伊藤忠商事を通じてライセンス販売をしていたが、2009年1月に撤退している。
なぜ、ファストリは日本で一度失敗しているブランドに再び目をつけたのか。『ユニクロ世界一をつかむ経営』などの著書がある流通コンサルタントの月泉博氏が語る。
「確かにJクル―は日本ではミソがついたブランドですが、アメリカでは『メイドウェル』といった女性向けのトレンディーなブランドも含めて根強い人気があります。オバマ大統領夫人が愛用しているのも有名な話ですしね。
ファストリとしては、橋頭堡を築いたアメリカでこれから一気に拡販させるためには、現地の有名ブランドと一緒になった新たなプラットフォームづくりが欠かせないと判断したのでしょう。
ユニクロはアジア系の人たちも多いサンフランシスコやロサンゼルスなど西海岸では評判はいいのですが、ニューヨークの旗艦店をはじめ東海岸の都市や郊外では知名度はまだ低い。そこでJクル―のブランドを利用できれば強力な武器になるのです」