企業がマタハラの問題を解決することは、今後の社会を考えた時、マタハラ以外の問題解決へと繋がる可能性を村上さんは指摘する。
「経済団体から政府への要望には、保育施設の増加・延長保育・(土)(日)保育の実施といった、子育て女性を支援して欲しいという内容が盛り込まれています。子供を産み・育てる女性が、重要な戦力として活躍できる条件が整備されることを経済界も望んでいるんです。
また、年齢や性別に関係なく、がんなどの持病を抱えた際に治療と両立しながら働く、あるいは介護をしながら働かなければならなくなる――といったことは、誰にでも起き得る問題です。労働力人口が減少する中で、さまざまな事情や状況を抱えていても、無理なく働ける環境を整備することは、企業にとっても大きなメリットになると思います」(村上さん)
近年、企業内での評価は個人の成果に焦点が当てられる形になり、個人として成果が上げられなければ、会社に居づらい空気がある。しかしかつては、課やチーム全体で成果を上げることに重点があり、助け合って目標を達成する要素が強く、多様な人が働きやすい環境があった。
「かつての会社には、社内をブラブラしているベテラン社員がいて、どこかのチームが困っているとアドバイスをくれたり、他部署と協力できる根回しをしてくれるような、リアルな“相談役”がいたり、“お局様”が女性社員の利益を代表して、会社に改善案を掛け合ってくれたものです。
多様な雇用形態を存在させたり、個別の事情を抱える人を積極的に活用するには、こういった“数値で計れない成果を生み出す人”を大事にしたり、評価する柔軟さが、企業のマネジメントの中で重要になると思います。あるメーカーでは、こういう“ブラブラ社員”がいなくなったら、職場全体の効率が下がってしまった――なんて話も聞きます」(村上さん)
マタハラが問題化することなく、産休・育休を複数回取得できる環境が整っている企業は、規模の大小に関わらず存在している。会社も社員も、妊娠・出産・子育てをする社員に対して“知見”があり、双方が対処法を自然と理解しているのだ。そうした企業は“助け合う・補い合う”体制があり、その仕組みを介護や闘病といったことへ応用することは難しくないだろう。
「女性の働き方やライフプランの変化によって、産休・育休を取る年代の幅も広がっています。今や多くの女性社員がいるのは当たり前ですし、責任ある立場の女性が妊娠・出産するケースも増えています。そうした大きな戦力である女性をマタハラによって失うのは、職場にとってマイナスです。
しかもマタハラという問題の解決をきっかけに、会社は社員を、社員は一緒に働く人たちを“一人ひとり尊重する”職場が作られれば、妊産婦だけでなく、みんなが働きやすい環境になるわけです。多様な人が働ける職場環境を作る――あくまで“過渡期”を越える具体的な課題としてマタハラをなくすことは、女性だけでなく企業や社会にとっても重要なことだと思いますね」(村上さん)
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