自分の死にそなえて希望などを書き留めておく「エンディングノート」の存在は日本でも多くの人が知るところとなったが、余命宣告を実際に受けたあと、実際にエンディングノートを綴るのは難しい。ベストセラー『がんばらない』著者で諏訪中央病院名誉院長の鎌田實氏が、19歳で亡くなったイギリスの若者の例をあげて人生最後の時間を過ごす上で大切なことについて解説する。
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5月14日、イギリスの若者が大腸がんからの肺、肝臓、骨への転移で亡くなった。スティーブン・サットンくん、19歳。この青年の言葉がインターネット上で注目を集め、7億円に近い金額の募金が集まったらしい。
彼は15歳のとき、大腸がんと診断された。約3年間で7回の外科手術と化学療法や放射線治療を受けてきた。そして2012年、完治の可能性なしと伝えられた。
スティーブンくんが凄いのはここからだった。決して絶望にへこたれない。死ぬまでにやり遂げたい“46の目標”を立て、昨年1月から「スティーブンものがたり」というサイトをインターネット上に立ち上げた。
彼の目標というのは、ごく普通の若者たちが考えるようなことだった。「曲芸を学びたい」「コメディアンのジミー・カーに会いたい」「スカイダイビングをしたい」「ダーツの大会を見に行きたい」「映画かミュージックビデオのエキストラとして出演する」など、よくある若者らしい楽しいことばかり。
アメリカのケンタッキー大学の研究チームは、楽しく生きる人はそうでない人より、免疫力が高くなると発表している。こういった目標を持つことは末期がんの患者にとってもいいことなのだ。
しかしスティーブンくんの関心はそれだけではなかった。楽しいことをした上に、誰かの役に立ちたい。がんで苦しんでいる他の患者さんのために何かできることはないのか、と考え始めたのだ。
スティーブンくんは、募金のために生きることを決めた。サッカーのチャリティー試合を開催する、チャリティーコンサートを開く。チャリティークイズ大会にダンスパーティー。死ぬまでにやりたいリストは自分のためだけではなく、誰かのために成し遂げたいという思いに変わっていった。