【著者に訊け】ハルノ宵子氏/『それでも猫は出かけていく』/幻冬舎/1500円+税
人と猫の命に見境のない、“ひとでなし”を自認する。
「どうも私は物心ついた頃から人間と人間以外を区別しない子だったらしくて。かといって単なる猫好きとも違うし、むしろ人間の方が同類に思えないのかもしれません(笑い)」
このほど難病を患う愛猫、シロミちゃん(♀・9歳)の介護生活を『それでも猫は出かけていく』に綴ったハルノ宵子(よいこ)氏は、漫画家でエッセイスト。2012年3月に父・吉本隆明氏を、同10月には母・和子さんを亡くし、〈この本は、吉本家最後の8年間の記録でもあるのです〉と前書きにある。
シロミのように縁あって命を救われた家猫もいれば、出入り自由な吉本家を餌場にする外猫もおり、事情も“猫柄”も様々な猫たちの向こうに透けて見えるのが、多種多様な人間の姿だ。
〈自分の「うつし」が死んだ〉と、かつて父・隆明氏は著書『フランシス子へ』で愛猫の死を嘆いたが、中でも〈都市猫〉は人間を映す〈鏡〉だとハルノ氏は言う。彼らの生きづらさは、この社会の生きづらさをも物語ると。
文京区本駒込。昔ながらの寺や墓地に隣接する一画に吉本邸はある。梅、ツツジ、紫陽花と、庭木の顔ぶれも懐かしく、玄関脇の皿には生利節や湯がいた帆立など、外猫用に豪勢な餌が並ぶ。
「今日は雨だし、まだ誰も来てないか。いつもは一番高い帆立からとっととなくなるんですけどね(笑い)」
地道な避妊作戦が奏功し、現在外猫は数匹に減ったが、一時は子育て上手な〈神母〉一族など、十数匹が居着いたことも。墓地に捨てられていたシロミや〈父の愛猫〉フランシス子、交通事故で傷ついたヒメ子など、代々の家猫も含めれば〈完璧な“猫屋敷”〉だが、何も好んでそうなったわけではない。
今や腐れ縁の〈D動物病院長〉と〈マトモな猫いねーのかよ〉〈マトモだったら連れてくるかよ!!〉と憎まれ口を叩き合い、糸井重里氏が〈ここんちは野戦病院だな〉とこぼすほど、都会の片隅で生きあぐねる猫たちを氏は放っておけないのだ。
「鳥でも鼠でも取り放題の田舎はいいけど、都市猫はある程度人と付き合わないと食べていけないでしょ?その微妙な野性を理解せず、保護という名の殺処分しか頭にない行政とは、しょっちゅうモメてます(笑い)」