筆者は数年前から、「せっかくプロの看護師がいるのだから、自己採血でなく看護師にやってもらったらいいのでは?」と指摘してきた。おそらく誰もが感じる当たり前の疑問だが、解消されない。
なぜこの問題に容易に手がつけられないかというと、医師という専門家集団の「縄張り」に関わる問題だからだ。ワンコイン健診で看護師に採血させる程度で「医師の仕事を奪う」といった大仰な話になるまい……と思われる方もいるだろうが、“縄張り”の議論では、蟻の一穴を開ける危険性を極めて慎重に考慮するものだ。
規制のもともとの目的は〈衛生上の危害〉(保健師助産師看護師法37条)を防ぐことだ。自己採血から看護師の採血に切り替えて〈衛生上の危害〉が生じるとは到底思えないが、「縄張り」の壁は厚いのだ。
※原英史・著『日本人を縛りつける役人の掟』(小学館)より