1本のレポートが、日中両国で議論を巻き起こしている。中国のネットメディア「BWCHINESE」が6月11日付で報じた「中国と日本の差―日本にはどれだけ世界一が多いか」と題する論考である。その内容は、中国メディアでは極めて珍しく、日本を礼賛するものだった。そこにはどんな意図が隠されているのか。
論文は、以下のような内容から始まる。
<中国のGDP(国内総生産)は急速に伸び、国家の総合力は高まりつつある。しかしそれを喜ぶ一方、中国と日本の間に存在する差にも注目しなければいけない。多くのデータが示すように、日本は色々な分野で中国に差をつけている。それは無視してはならないことである>
寄稿したのは、中国社会科学院の日本政治研究所に所属する王沖・特約研究員だ。中国社会科学院は、中国の社会科学研究の総本山であり、「政府のシンクタンク」として知られている。
中国政府に非常に近い機関の研究員が、日本を称えるデータをこれでもかと並べているのだ。まずは技術力について。
中国はGDPで2010年に日本を逆転し、アメリカに次ぐ世界2位となっている。「日本など眼中になし」というのが大方の中国人アナリストの主張だが、王氏の意見は違う。
<たとえば鉄鋼産業はエネルギー消耗量の大きい産業であり、1トンの粗鋼を生産するのに使う石炭の量は各国で大きな差がある。中国は1トンの粗鋼につき石炭1.5トンを使う。アメリカは1トン、対して日本はわずか0.6トンである>
その技術力を下支えしているのは、科学研究への投資だと論じる。
<近年、日本の総合競争力は衰え気味といわれるが、科学技術競争力はアメリカに次ぎ世界第2位。科学技術研究開発へ投入した資金もアメリカの次で、世界第2位である。これはドイツ、イギリス、フランス3か国の投資総額より多い。(中略)1万人の労働者に対する研究者の比率は世界1位である>
しかし、後半部分を読むと、著者である王氏の「狙い」が透けて見える。