熱中症での死者数に占める65歳以上の割合は2010年の記録で79%と高い数字を示しているが、高齢者だけが熱中症になるわけではない。
かつて運動部に所属してグラウンドで汗を流した人ならわかるはずだが、「練習中は水を飲むな」と監督から水分補給を禁止されても倒れる部員はほとんどいなかった。最近はそんな悪習もなくなったのに、高校球児や陸上部員などが部活動中に倒れたというニュースは多い。
この疑問に福岡新水巻病院・周産期センター長の白川嘉継医師が次のように答える。
「能動汗腺の数は生後2~3年までの温度環境に影響されるといわれ、温帯で生まれた日本人は230万個、寒帯では190万個、熱帯では280万個といわれています。日本では1980年代にクーラーが一般家庭に普及しましたが、それ以降に生まれた人の熱中症が増えているのです。
現代の子供の汗腺数の調査データはありませんが、生まれた時から温度調整された環境で過ごしていると汗腺が少なくなってしまい、上手に汗をかいて体温調節することができずに熱中症にかかりやすくなっていると考えられます」
では、今後ますます子供の熱中症患者が増えるのかというと、そうでもないようだ。大阪国際大学で体温調節を研究する井上芳光教授はこんな見方を示す。
「熱中症研究者の間で、現在のように冷房の効いた環境の中では昔に比べて子供の発汗機能の発達が遅れてきていると考える研究者もいます。しかしそれはあくまでも推論であって、昔の子供と今の子供を比べて暑さに対する耐性が弱くなっているというエビデンスはありません。むしろ熱中症の死亡者は、高齢者の増加とは対照的に子供は減っているのです」