年間1万人とも言われる認知症による徘徊老人の問題がクローズアップされている。行政はようやく研究班を立ち上げたが、遅い。ではどうすればいいのだろうか。コラムニストのオバタカズユキ氏が提案する。
* * *
徹夜明けの朝帰りをしたときなど、自宅近くで早歩きをしているお年寄りによく出会う。大半はウォーキングに励んでいるお爺さん、お婆さんなのだが、「それにしては身なりがスポーティじゃなさすぎる」と感じる場合がある。「もしかして徘徊中……?」と気にしているうちに、お年寄りはもう曲がり角の向こうに消えてしまっていた、なんてこともある。
警察庁によると、昨年1年間で、認知症が原因の行方不明の届け出は延べ計1万322人だったそうだ。そのうちの多くはじきに見つかったが、今年4月末時点で所在が確認できていない人も258人いる。これらの数字は年々増えている。
この状況に対し、厚生労働省は認知症徘徊が起きる要因調査の研究班を設置した。来年3月までに一定の調査結果をまとめるとのことだ。そのレベルのご研究を今頃ようやく……。
行政に文句ばかりつけるのも良くないのだけど、これは膝ガックンな話だ。徘徊のメカニズムは世界でも解明されていない、とのことだが、超高齢社会に一番乗りして久しい日本なのに、いろんな対策が後手に回っている。
実際、我が家から徘徊で行方不明者が出たらどうなるか。NHKの「NEWS WEB」の取材まとめ記事を読んでみると、これがかなり問題なのだ。
家族はまず地元の警察に届け出て、どこかで保護されていないか調べてもらう。ところが、身元不明者の保護は地方自治体ごとに行っているため、地元で見つからなければ、家族が自らあちこちの自治体に連絡しまくらなきゃならなくなる。
しかも、ある県のある市で身元不明のお年寄りが保護されていることが分かり、その市に問い合わせても、教えてもらえるのは保護をした時期と性別と年齢ぐらいでしかない。顔写真や身体の特徴などの情報は出せない、と言われるケースが多いそうだ。
なぜなのか。個人情報保護の必要があるからだという。同じ理由により、情報を自治体間や警察との間で共有していない。そのせいで家族は日本中に電話をするハメになり、ロクな情報も得られないわけだ。
徘徊のメカニズム解明も必要だが、まず厚生労働省が手がけるべきは、身元不明者の情報の一元管理ともっと柔軟な情報提供のガイドライン作りだろう。静岡県と千葉県では「明らかに本人の利益になるとき」は保護されている人の顔写真の公表にも踏み切ったそうだけれども、日本は新幹線をはじめとして非常に鉄道網が発達している。徘徊は容易に列島を縦断可能なのだから、国がまとめて面倒を見なきゃダメだ。
この問題の深刻さは、今年の5月に「NHKスペシャル」が、「“認知症800万人”時代 行方不明者1万人~知られざる徘徊の実態~」を放送するまでさほど知られていなかった。覚えている人も多いと思うが、群馬県の介護施設で暮らしていた身元不明の老婦人が、番組内で紹介されて東京都の家族と7年ぶりに再会を果たした。それをニュースとして知ったときは、NHKの底力を思い知ったものだ。
認知症者が行方不明となり、発見時にはすでに亡くなっていた、という例もたくさんある。この問題は病気と同じく早期発見が大事だから、もたもたの行政頼りでは心持たない。で、一つ提案なのだが、だったらNHKが持てる力をより積極的に発揮してみてはどうだろう。
公共の電波を使って、行方不明者探しを手伝うのだ。家族から提供された認知症者の個人情報を繰り返し流す、認知症専門の“探し人番組”枠を設けたらいいと思うのだ。