前例はある。中国残留日本人(当時は、中国残留孤児、と呼んだ)が大テーマとなった頃の“肉親探し番組”だ。1980年代、敗戦の集団引き上げの際に中国残留となった当時の子供たちを訪日させ、肉親探しを手伝う活動が国民的に行われた。幼少時のおぼろげな記憶をたどって中国語で泣きながら訴える、中国人のような日本人の中年たち(孤児たち)の動画が、連日、何回も放送されていた。集団訪日があるたびに、足かけ何年か、同様の放送が続いた。
あの時は、厚生省の主導でメディアもボランティアも動いた。今の厚生労働省からそのような発案があっても当然構わないが、認知症の問題を熱心に追っているNHK主導で“探し人番組”を企画するのもありではないか。家族が探す場合だけじゃなく、身元不明の認知症者を保護している自治体側が情報を出すパターンもあっていい。
個人情報がらみのリスクに関しては、弁護士などがプロボノ(専門家のボランティア活動)として対策を助言する。当事者のケアや各種社会資源とのつなぎ役は社会福祉士などのソーシャルワーカーが担当、彼らは収入の少ない人が大半なので、ちゃんと日当を払う。寄せられてくる情報を集積し検索可能にするシステムづくりも手がけ、実用的なテレビとネットの融合をここぞと本気でやる、などなど。
なんにしても、思いつく限りの知恵を結集し、国民的ムーブメントに広げていく。それは自動的に、認知症や超高齢社会とはなんなのか、どう向き合えばいいのかを考えさせる、啓蒙運動になる。世界に誇れる超高齢社会対策の成功事例は、きっとそういう試みから立ち現われる。
まあ、あまり計画を大きくすると机上の空論になってしまうので、できるところから始めればいい。ひとまずは大自然の景色とかを流している真夜中の時間帯を使って、“探し人番組”を放送してみませんか、NHKさん。