【著者に訊け】水野和夫氏/『資本主義の終焉と歴史の危機』/集英社新書/740円+税
「最近はガソリンが高くて困る」「株価は上がっても給料が上がった気がしない」。こうした現実が実は、資本主義の死期が近づいているサインらしい。金融緩和、財政出動、成長戦略を軸としたアベノミクスの“三本の矢”は、〈危機をより深刻にする〉だけだと、日本大学教授・水野和夫氏は言う。
もはや収奪の対象となる〈フロンティア〉=〈地理的・物的空間〉は地上からほぼ消滅し、〈電子・金融空間〉もバブルの生成と崩壊を繰り返すだけで既に飽和状態。その間、〈「中心」と「周辺」〉の組み替え作業とも言えるグローバリズムは周辺固有の文化すら破壊し、深刻な格差を地球規模で生んだ。
ポストモダンと言いながら近代の延命ばかりに汲々とする昨今、まずは歴史に立ち返り、〈成長の病〉を脱した次なるステージを本書は展望する。脱近代は脱成長と、イコールなのだから。
「今でも経済学者の9割は成長=善だと信じています。その中で資本主義の終焉を明言する私のような〈変人〉の本が受け入れられて、本人が一番驚いています(笑)」
本書が10刷14万部と版を重ねる背景には、もう右肩上がりに経済は進まないと薄々予感し、〈「強欲」資本主義〉の後に続く次なるシステムを待望する時代の気分があるのだろう。その気分に水野氏は明確な根拠と歴史的解説を与えてくれる。
例えば〈交易条件〉という概念である。これは輸出物価指数を輸入物価指数で割った比率なのだが、例えば自動車1台の輸出代金で、購入できる原油が半減すると、交易条件指数は100から50に悪化する。
日本ではこの交易条件が1973年のオイルショック以降大幅に悪化。しかも現在の原油高は〈新興国の近代化〉に伴う需要の急増が背景にあり、長期化は必至だ。原油価格が高騰すれば、製造業で利益をあげることは難しい。〈交易条件が悪化するということは、モノづくりが割に合わなくなったことを意味します〉と氏は説く。
「経産省もこの程度の数字は把握しているはず。それでも技術力で経済を立て直すのは無理だと誰も言わないのは、やはりショッキングすぎるからでしょうか」
製造業を中心とする実物経済での市場拡大に限界を見た先進国、特に米国はITと金融自由化を結合させて金融帝国への道を邁進、140兆ドル規模のマネー空間を創出した。21世紀の〈電子・金融空間〉を創出したその米金融テクノロジーを「偽りの空間革命」と呼ぶ。
「こうした資本主義の延命策で、米国などの先進国は自国民を苦しめています。資本は自由に国境を越えますが、労働者が自分の土地を離れることは難しく、実質賃金の減少が恒常化したからです。資本主義は今も昔も〈中心〉が〈周辺〉から奪う営みですから、サブプライム層や非正規雇用者など、国内に新たな〈周辺〉を作り出しただけです」