厳しい条件で挑んだアジア大会での吉田は、常に相手よりも細く小さく見えた。
外国選手に「負けない」ことで知られる吉田だが、2008年にアメリカ、2012年にはロシアの選手に敗れている。その2試合の共通点は、相手のほうが2キロ以上重い状態だったことだ。
階級ごとに試合をするレスリングだが、団体戦であるワールドカップでは2キロオーバーの計量方法がとられている。つまり、決められた体重より2キロ重いままで計量をパスできる。減量の幅が大きな選手は余裕をもって試合に挑み、吉田のようにふだんから体が階級ギリギリの体重しかない選手は、他の出場選手より一回り小さな体で試合をすることになる。
アジア大会での吉田は、悪条件が重なったことにより過去に苦杯をなめた試合のコンディションに近かった。そのうえ、中国の選手は背が高くて筋力に秀でた体が大きな選手が多く、今回の対戦相手も同じタイプだ。悪条件の重なり具合は、過去に敗れた2試合の状態に似ていた。
リオデジャネイロ五輪まで、あと2年。10年以上、世界の頂点であり続ける吉田に対する研究は重ねられているが、弱点の在り方は明確だ。みずから目標と公言する五輪4連覇へ向けて、「チャンピオンなのに、誰よりもしっかり自分を追い込む」(栄和人監督)練習を重ね、慎重で万全の準備が整えられる材料が今回の苦戦でそろったと言えそうだ。
文■横森綾(ジャーナリスト)