中国側からみると、香港と台湾の事態は「喉に刺さったトゲ」と言っていい。それでなくても暴動やテロが頻発しているのに、デモが国内に伝染したら大変だ。といって、1989年の天安門事件のように戦車でデモ隊を押しつぶすわけにはいかない。
そんなことをすれば、世界中から非難を浴びて新興国リーダーの座を失うだけでなく、国際金融センターとしての香港も失ってしまう。香港は中国の権力者たちが汚職で稼いだマネーを洗浄して、国外逃避させる場だった。手荒な対応は自分で自分の首を締めかねないのだ。
歴史をみると、自由と独立を求める戦いは共産党独裁政権に勝利してきた。典型はバルト3国である。バルト3国は1940年に旧ソ連に併合されたが、ゴルバチョフ大統領失脚のきっかけになったソ連のクーデター失敗後、1991年8月に再び独立を達成した。それも促進剤になってソ連は崩壊した。
自由と独立、民主主義を求めるバルトの人々のDNAは50年経っても消えなかったのだ。同じように香港と台湾のDNAも消えないだろう。学生たちは自由の価値を体で知っている世代である。
中国が「香港を思いのままにできる」と考えるのは大きな勘違いではないか。基本法が定めた50年後の2047年、消えているのは香港ではなく中国かもしれないのだ。
文/長谷川幸洋(はせがわ・ゆきひろ):東京新聞・中日新聞論説副主幹。1953年生まれ。ジョンズ・ホプキンス大学大学院卒。規制改革会議委員。近著に『2020年 新聞は生き残れるか』(講談社)
※週刊ポスト2014年10月31日号