【著者に訊け】黒野伸一氏/『脱・限界集落株式会社』/小学館/1600円+税
ダイエットも村おこしも、「〈標準体重〉になった後が肝心」と黒野伸一氏は言う。
「別に筋肉隆々になっても仕方ないですしね、人はつい、やり過ぎちゃうんです。過疎と高齢化が進む限界集落〈止村〉を法人化し、農業に近代的な経営感覚を導入して4年。確かに村は活性化し、形は歪でも味のいい野菜やキャラクターの〈ベジタ坊〉は有名にはなった。でも問題はその先、どうなりたいか、なんです」
現在累計27万部を突破し、放送中のNHK土曜ドラマ(出演/反町隆史、谷原章介ほか)も好調な『限界集落株式会社』(2011年)。待望の続編『脱・限界集落株式会社』では、晴れて危機を脱した村のその後と、同じく幕悦町の駅前にある〈上元商店街〉の再開発騒動を描く。
〈TODOMEブランド〉の成功により、今や幕悦は渋谷の人気ファッションビル〈マライア〉を誘致した〈TODOMEモール21〉がオープンするまでに成長。が、昔ながらの上元商店街は恩恵に与れず、〈シャッター通り〉と化す中、われらが止村株式会社社長〈多岐川優〉たちは再び立ち上がる!
前作では止村の零細農家〈大内正登〉〈美穂〉親子や村の人々が納得のゆく野菜を納得のゆく方法で育て、経済的・精神的に自立する過程を描いた黒野氏。「特に農業経験はない」という氏には、大食漢OLの怒濤のダイエット小説『女子は、一日にしてならず』などもあり、農協依存や糖質依存からの体質改善が、一貫したテーマにも思えてくる。
「まあ農協なり何なりは共生体に過ぎず、自分が変わらない限り、いつまた別の共生体に依存してもおかしくないですから(笑い)。TPPにしても、かつての止村のように戦略もヤル気もない農業では海外との価格競争に負けるのは当然で、そこに多岐川みたいなキザなインテリを放り込めば、何か閉塞感を打ち破る面白い物語が書けるんじゃないかと考えました。
読者も私も現代を生きている以上、限界集落やブラック企業といった言葉の響き一つにも無関心ではいられないし、とにかく時事的なテーマを掲げ、読者に楽しんでいただける作品を書くことが、最大の執筆目標です」