経営コンサルタントとして東京で活躍する多岐川が、今は亡き祖父が暮らしていた第二の故郷・止村を株式会社化し、まだ20代の美穂を副社長に抜擢して早4年。ちなみに前作で彼は美穂と、正登は町主催の就農事業で村にやってきた元キャバ嬢〈あかね〉と結婚しており、その多岐川と美穂がなぜか別居中という不穏な雲行きの中で、続編は幕を開ける。
会社の成長に戸惑う美穂は村を離れ、又従妹〈新沼琴江〉が営む〈コトカフェ〉に現在出向中だ。主に地元の老人が集うこのコミュニティカフェでは、東京からのIターン組〈長谷川健太〉や地元出身者〈遠藤つぐみ〉が働き、話し相手や介添役も兼ねて日々賑わっている。
健太の場合、大手居酒屋チェーンなどで使い捨て同然に扱われる仕事に嫌気がさし、役場が空き家を若者向けに安く提供するシェアハウスに移住。また、彼が思いを寄せるつぐみも、〈あたしは、普通に仕事をしたかっただけなんです。だけど、その会社で働くためには、人格を根本から変えなきゃいけない〉とこぼし、多くの村人から頼りにされ、何より人間扱いされる今の仕事には、以前よりずっとやり甲斐を感じてもいる。
「彼ら若者の雇用問題でも、一部投資家が金を儲けたら儲けたで、さすがにヤバい、取り過ぎだと、彼らを正社員にしたり富を分配するだけで、格差は相当縮まると思う。自分は頑張ったから資産が何兆ある、頑張れない人は1日1ドルで暮らせなんて、同じ人間なのにおかしいと、たぶん気づくか否かは感性の問題なんです。
むろん小説は大上段から物を言う性質にない。でも小説だから感性に訴えられるわけで、ピケティが言うような法規制に頼らなくても、個人の感性でやれることは沢山あると思います。止村の展開や上元の再開発でも、やり過ぎはやっぱり危険だなあと、感じてもらえればそれでいいんです」