そうした治安回復の手腕を評価され、2001年から1年間は国連がシエラレオネで行なう武装解除の、2003年から2005年には国連がタリバン政権崩壊後のアフガニスタンで行なう武装解除の責任者として、国際社会やゲリラ、民兵組織などへの根回しに奔走し、武装解除の現場に立ち会った。現場では銃弾が頬をかすめ、危うく罠に掛かって地雷を踏まされそうになったこともある。

 2002年からは大学教授の職にあるが(現在は東京外国語大学大学院総合国際学研究科教授)、今もその行動は学者の枠にとどまらない。アフガン問題解決の根本的な鍵はインド・パキスタンの関係にあるという考えから、両国の大学間の交流プロジェクトを手掛けつつ、これまでに培ったコネクションを活かして過激派のリーダーとも接触しているという。

 実は伊勢崎は護憲派だ。現実との乖離はあり、いずれ改憲する必要が出てくるだろうが、まだまだ憲法9条のおかげで国際社会で日本が中立的な立ち位置を取ることができる以上、それを活用すべきだという考え方だ。現場で修羅場を踏んできただけに、したたかで、リアリスティックなのである。

 ちなみに、最近出版した自著『本当の戦争の話をしよう 世界の「対立」を仕切る』の中で、伊勢崎は「人間性善説で国際関係は成り立っていない」と述べている。その一方、東チモールで配下の兵士が殺され、残酷な扱いを受けたことに冷静さを失い、国連軍に報復的な行動を許してしまったことを悔い、北部同盟の武装解除を行なったことがタリバン復活を招いたとして自戒の念を抱く。

 本書を読んでいると、旧来の観念的な護憲派はもちろん、声高に叫ぶ「積極的平和主義」なるものがいかに現場を知らないものかと思わざるを得ないのである。

※SAPIO2015年5月号

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