クレディセゾンのテレビCMで披露した「頭突き瓦割り」で一躍注目を浴びた新進女優・武田梨奈(23)と、『役者は一日にしてならず』(小学館刊)の著者である映画史・時代劇研究家の春日太一氏のロング対談。全3回のうち第3回をお届けする。
春日:空手を始めたきっかけは?
武田:空手を始める前からオーディションはずっと受けていたんですけど。でも、何かやりたいものがもう一つないかって探していたときに空手と出会って。
春日:かっこいい。
武田:ただ、空手って型でもそうですし、組み手のときも常にポーカーフェースなんですね。試合のときに痛い表現をできないんです。「うわっ!」てなっただけで判定負けしちゃうので、絶対に痛さとかを表現しちゃいけない。だけど、アクションシーンの場合は、痛さをどれだけ表現するかというのが大事になります。私にとって真逆だったんです。だから、すごく難しかった。
春日:空手というのは「戦うアクション」ですよね。それに対して映画のアクションというのは「見せるアクション」になってくるわけですけど、その辺、戸惑われましたか。
武田:最初は戸惑いましたね。特に『ハイキック・ガール』で初めて役者やらせてもらったときは、よくアクションの方たちにも言われました。「あれはアクションじゃない」と。
春日:それはどういうところが?
武田:やっぱり表現の仕方とかだと思うんですけど。「これ、アクションじゃないんだ……」とネガティブなところから入っていって悩んでいたんですけど、アクション監督さんに「別にアクションじゃなくてもいいじゃん」って言われて。
ジャッキー・チェンさんももともとはブルース・リーさんに憧れて、ずっとブルース・リーのまねをしてきた。でも、それで全然注目してもらえなくて、新しいことをやろうとコミカルにやったりして、それがまた新しいアクションのジャンルになった。だから、『武田梨奈はまず自分の空手を生かした空手アクションという新しいジャンルでいいじゃん』というふうに言ってもらったことで凄くポジティブになれたんです。
春日:素晴らしいなあ……。
武田:まずは自分の道を極めようとアクションをやらせてもらって、最近は別のこともやっていこうと、刀も練習させてもらっています。
春日:東映の殺陣師の方に聞いたのですが、千葉真一さんが時代劇をやることになった時、空手の癖を治させるのに苦労したそうです。足の運び方が、空手の動きになっちゃうというので。どうしても内股になってしまうから、時代劇になると強そうに見えないという。
武田:そうですね。私もそれは言われました。
春日:やっぱりそうなんですか。その辺、矯正していくのは大変ですか。
武田:そうですね。足と、あと私は手ですね。例えば、両手で刀を使うときはまだいいんですけと、片手で使うときとか、もう片方の手をどうしたらいいかわからなくなってしまったり。空手のときは常に腰にあるんですけど、時代劇だとそれが違和感につながってしまったりするので。時代劇では手と足を注意して見るようにしています。刀を振るところよりも。
春日:そこは空手をやってきたからこそ気づく時代劇の大変さかもしれないですね。『役者は一日にしてならず』に登場する時代劇の役者さんにお話を聞くと、みんなおっしゃるのは「刀を振ることよりも実は足の運びが大事なんだ」と。