「自分の言葉で語る」ことは難しい。しかし自分で語れないと、人にわかってもらえない。AKB総選挙からフリー・ライター神田憲行氏が思ったこと。
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全然ファンではないのだが、たまたまつけてテレビでやっていたAKB総選挙に見入ってしまった。順位を発表して、呼び出されたひとりひとりがマイクの前でするスピーチが面白かった。
とくに印象深かったのは、去年の7位から9位に落ちた島崎遥香さんのスピーチだった。
《私は、たくさんの人に、好かれるタイプじゃないけど》
というのは、全方位外交のアイドルからすれば勇気が要った発言だと思う。彼女は握手会の態度が他のメンバーに比べて素っ気ないことから「塩対応」と呼ばれているらしいが(逆にどんな様子で握手するのか見てみたいわ)、順位が落ちたことがショックだったのだろう、毎年1分程度のスピーチが4分に渡ったという。やはり挫折したときの言葉ほど、人の心に届く。
彼女らはタレントなのであらかじめ脚本のようなものが用意されているのかとうがった見方もしたが、あれだけ場面に応じたスピーチを何人分も何種類も用意するのは不可能だ。ガチでやっているからこそ、出てくる言葉だと思う。
またタレントだから「喋り」が巧い、というわけではもないと思う。彼女たちと同世代の高校野球の選手も、私が取材を始めた20年前と比べるとずいぶん巧くなった。
昨夏でいうと、日本文理の飯塚悟史投手(現・横浜DeNAベイスターズ)だ。まるで大人のように落ち着いた口ぶりで自分のプレーを振り返って説明してくれた。非常に取材しやすい選手だった。
私の経験則で言うと、優れた選手は自分で考えた言葉で話す。恐らく毎日の練習でも自分で考えながら取り組み、長所・短所のポイントを把握し、試合ではつねにそのポイントにフィードバックしながらプレーしているからだろう。だから試合後20分程度でまだ甲子園の土にまみれたまま取材を受けても、すでに頭の中で整理されている。
最近だと安樂智大投手(済美→楽天イーグルス)のコメントが印象に残っている。自分のピッチングを振り返ることを求められて、
《初回に外のストレートを左打者に巧くレフト前に運ばれたので左打者に外のストレートは使えないと思い、インコースとスローカーブで打ち取るようにしました。9回もスローカーブが使えたから、ピンチを切り抜けられたと思います。ストレートばかりだと逆転されていたと思います》
ここまで一気に喋る。どうです、すごいでしょう。藤浪晋太郎投手(大阪桐蔭→阪神タイガース)もやはり、よどみなく質問に答える姿が印象的だった。アイドルであろうと高校野球の選手であろうと、ガチでやってる18歳は自分の言葉を持っている。