【著者に訊け】浜田文人氏/『禁忌-taboo-』/幻冬舎/1600円+税
安酒場やガールズバーがひしめく新橋・烏森の雑居ビル2階。家賃4万7000円の家具もろくにない部屋で、浜田文人著『禁忌』の主人公〈星村真一〉は、ある時は『コットンクラブ』、ある時は『シカゴ』のDVDを唯一の慰めに眠りにつく。
〈「映画が好きなの」
「別世界だからな」
「どういう意味よ」
「俺のまわりではありえないことだから、たのしめる」
「そっか」〉──。
元築地署生活安全課保安係だった彼が人材派遣会社〈SLN〉に拾われて2年。社長の〈有吉〉は彼に何かと厄介事を頼み、今は銀座の高級クラブ「ゴールド」ホステス〈大西礼子〉の自殺に関して損害賠償を求める店側との交渉に奔走中だ。〈やれと言われればやるが、やると決めたら退かん〉と半ば有吉を脅しながら……。
2000年の『公安捜査』以来、一貫して一匹狼を描いてきた著者は、事件記者出身。その取材力や人脈を武器に別世界に転じた理由とは?
「僕は学生時代にグレてしもうて10年の空白があるんやけど、元々小説を書きたかったから30で上京したんです。ところが初めて住んだ神泉でプラッと入った雀荘がたまたまあの小島武夫の店で一緒に卓を囲んだらいきなり僕が11連勝。兄ちゃん強いなって小島さんに呑みに誘われたが最後、結局43までプロ雀士(笑い)。
当時の遊び仲間には色さん(色川武大)とか吉行さん(淳之介)とか、錚々たる作家がいてね。そのうちギャンブル記事や事件物をあちこちで書くようになり、例えば『公安捜査』はオウム事件の取材中、警視庁対県警とか公安部対刑事部の確執が面白くなって書いた作品。ただ厳密に言うたらあれはキャラクター小説やな。
説明やムダを極力削ぎ落とした文体で内面より行動を書くのが僕は正統なハードボイルドやと思うてて、今までの文体も何も全部捨てて、一から挑戦し直したのがこの『禁忌』なんです」