いわゆる「景気対策」は社会の維持・発展において必要なことと疑わない人が多いが、それは経済を殺すものだと経済学者で投資家の小幡績氏はいう。なぜ、景気対策がよくないのか? その理由を小幡氏が解説する。
* * *
国の予算規模は年々拡大しています。高齢者の増加、それに伴う医療費の増大などにより、社会保障関連費が膨らみ続けていることが要因です。この状況をさらに悪化させているのが、「景気対策」と称する歳出拡大の政策方針です。安倍政権も年末にかけて、補正予算を組んで景気対策を行なうと見られています。
このときに、注意すべきことは2つです。財政出動が必要なのは、大恐慌のように、経済全体が凍りついたような異常な状況のときだけです。逆にいえば、それ以外では、財政出動は経済のためにはなりません。
大恐慌ほど深刻ではない不景気のときに、財政出動を行なうことは、少なくともケインズが主張していた財政出動とは全く異なります。ケインズはそのままでは崩壊してしまうような経済危機の時に必要だ、と主張しただけです。
もうひとつ、ケインズが大恐慌の経済で何が一番の問題だと考えたかというと、それは失業です。だから、ケインズの本のタイトルは『雇用・利子および貨幣の一般理論』と「雇用」が最初に来ているのです。
失業は最大の経済損失です。株価が下がっても、土地が暴落しても、経済規模には関係ありません。値付けだけの問題だからです。
土地の場合は、高かろうが安かろうが、有効活用されているかが問題です。都心の住宅が不足しているのに、値上がり後の転売目的で土地を駐車場などにして遊ばせることが問題なのです。どんなに土地が高騰しても、それに見合う超高級な超高層住宅が建設され、個人が高い値段で自宅用に購入するのであれば、何の問題もありません。
むしろ土地という希少な資源を最大限に有効活用していることの表われです。高ければ高いほど、個人がその住宅を自宅用として高く評価していることになり、経済が発展していることを表わしているからです。
一方、中国の不動産バブルが懸念されているのは、高騰したマンションはほとんどすべてが投資用で、値上がり狙いで未入居のまま寝かせてあるからです。バブルだけを狙った投機なので、値上がりが一旦止まれば誰も買う人がいなくなり、売りが殺到して暴落するだけです。すぐに暴落しないのは、買い手がいなくてすぐには売れないからです。住宅バブルの調整は時間がかかります。