それに、現状の電柱と電線の維持費も安くはないと思う。たとえば、庭の木が大きくなって電線にかかると、電力会社が切りに来る。だが、木は伸び続けるから、電力会社は毎年それを繰り返している。そういうコストも含めると、現状のトータルコストはけっこう高いものについているはずだ。
その一方では、地下に埋設されている水道やガスがバラバラに工事をするため、日本全国で年がら年中、道路を掘り返している。互いのコミュニケーションも長期戦略もなく、工事業者なども別々に利権化しているから、そうなるのだ。
しかし、電線も電話線も水道やガスと一緒に道路などの地下に共同溝で埋設してしまえば、そのほうがトータルコストでは安上がりだし、地震や台風や竜巻などの自然災害にも強くなって国土強化に寄与するだろう。地下埋設のための土地収用に関しては住民が無料で協力しなければならない、といった条例も自治体ごとに制定する必要があるだろう。
そもそも無電柱化は街の景観を良くして不動産の価値を上げるのだから、これは立派な「成長戦略」だ。アベノミクスでも「第3の矢」(民間投資を喚起する成長戦略)として策定した「日本再興戦略」の中に無電柱化の推進を盛り込んでいるが、その目的は「観光地の魅力向上等を図るため」となっている。
しかし、無電柱化の本来の目的は、その街に住んでいる人々の資産価値を上げることや安全や防災にある。無電柱化を実現できるか否かは、地方自治体が国任せにせず、主体的な責任感を持ってアグレッシブに取り組むかどうかで決まるだろう。
※週刊ポスト2015年10月16・23日号