「三行広告はもう一つの社会面である」──ノンフィクション作家・佐野眞一氏はそう語る。その短い文章のなかには本音を剥き出しにしたメッセージが詰め込まれている。市井の人たちが紙上で繰り広げたドラマを振り返りながら、その奥深き世界を佐野氏が紐解く──。
* * *
新聞の三行広告というものを見たことがあるだろうか。インターネットの普及で、いまはまったく精彩を欠いてしまったが、昭和の時代には時に記事よりもずっと読者の興味を駆り立てる情報が並んでいた。その一条の情報は、決して多数ではないが、その情報を切実に欲している特定の読者の目をレーザー光線のように確実に射貫いていた。
すなわち、どうしても就職したい人、何とかして異性と交際したい人、どうにかしてムダ毛をなくしたい人、人に知られずせめて5cmだけでも背を高く見せたい人などに、一般広告など及びもつかない切実なメッセージを送り続けてきた。
目についた三行広告をちょっとあげてみよう。
〈土工 昼9000上夜1万5百上(3食寮)〉
〈サオ 日払1万9稼げる車貸素人大歓迎〉
〈チリ 高価買入日払風呂付個室〉
サオとは物干しサオの巡回販売、チリとはチリ紙交換のことである。
三行広告の中でなんといっても想像力を刺激するのは、スポーツ紙や夕刊紙に載る風俗関係の三行広告である。
〈前立腺マッサージ50分1万5千円〉
〈若手生身観音初開き 前代未聞浣腸実験花魁本番 姑娘三人乱交指名大会〉
〈私にSは出来ません 弄めて下さい〉
こうしたいかがわしい三行広告の間に時折挟み込まれる尋ね人の広告は特に味わい深い。 昨年他界した作家の赤瀬川原平氏は、尋ね人の三行広告のコレクターとして知られていた。その成果を『芸術新潮』(1984年7月号)に発表している。三行広告の醍醐味をじっくり味わっていただこう。