――若い女性と年の差婚をする芸能人のニュースが続くと、自分にも望みがあるのではと思わされるようですが?
田中:中年の全員がモテないと言っているわけではなくて、もちろんモテる人もいます。でもその中年男性は、女性に対する努力や配慮、上手に年を重ねたなりの知性など女性が惹かれる要素があり、相手との距離を縮めるプロセスが本当にうまくいっているからです。女性が心地よく過ごせるよう真摯に接して、エスコートできるような人だったら、どんな年齢でも、その人はモテると思います。でもそれは、すごく努力したからです。
――コミュニケーションのプロセスを丁寧に重ねず、あらかじめ好意をもたれるはずがないんですね。
田中:男子向けの漫画のように、女の子が空から降ってきて、自分のことを好きになってくれるようなことはあり得ないんですよ。その水準の幼い妄想を中年になっても持っているというのはまずいですよね。自分が特別だという思いを捨てたほうがいい。
――いまさらモテたいと願うのはムダだということでしょうか?
田中:問題はあくまでも、モテもしないのに「俺はモテる」と思っていること。「モテたい」ということと「モテる」と思っていることは違います。中年以降はいい意味での諦念、「あきらめ」をしたほうがより生きやすくなりますよ。
――男性は現実の自分の姿を客観的に考えずに暮らしがちなのでしょうか?
田中:まったく考えていないのではなく、そういう場所や機会がなさすぎるんです。もし自分の感情を吐露する機会があって、議論する機会があれば振り返るのは可能です。そのチャンスが少なすぎるために、悲しい結末を迎えてしまうこともあります。
自殺対策基本法が成立してから、自殺の調査研究を国が実施しています。自殺者の内訳をみると中高年男性が多く、彼らは悩みがあるとき、人に相談するのがはばかられる、という傾向が顕著に高かった。自己反省とか、自分が今、こういう感情を抱えているということ自体を、男らしくないこととして封じられてきた側面があります。その封印は解かれるべきです。そして、清々しいおじさんになりましょう。
●田中俊之(たなか・としゆき)1975年生まれ。武蔵大学人文学部社会学科卒業、同大学大学院博士課程修了。博士(社会学)。学習院大学「身体表象文化学」プロジェクトPD研究員、2013年より武蔵大学社会学部助教。社会学・男性学・キャリア教育論を主な研究分野とする。主な著書に『男性学の新展開』(青弓社)、『男はつらいよ』(KADOKAWA)、近刊に『<40男>はなぜ嫌われるか』(イースト・プレス)。