◆国連は中国の影響力を維持拡大させる“舞台”
一連の貢献拡大策は今回の会議で突然、出現したのではない。中国は以前から国連PKOを舞台とした「軍事外交」を展開してきた。
そもそも中国にとって国連は国際社会での影響力を維持・拡大させるための大切な舞台である。1980年代頃までは「内政不干渉」や「武力不行使」の原則からPKO参加に極めて慎重だったが、1999年のユーゴスラビア危機で有志連合による攻撃が国際紛争解決の有効な手段となったことに中国は危機感を募らせた。「国連軽視」は中国の国際社会における地位低下を意味する。2000年代以降、中国はPKOへの派遣を急拡大し、国連の役割と機能の維持に努めた。
とくに近年、政情不安から危険度が増す中東やアフリカにおけるPKOミッションに先進国が要員派遣を渋るなか、中国による派遣は拡大の一途をたどっている。2015年9月末時点で中国の派遣数は3040名に達し、他の国連安保理常任理事国4か国の合計1363名よりもはるかに多い。
2016~2018年の中国の国連分担金は米国、日本に次ぐ世界第3位になる見通しだ。PKO予算に限ると2016年に日本を抜き、米国に次ぐ世界第2位になるとみられる。
今回、中国が大規模な貢献拡大策を示した狙いの一つには、悪化する一方の国家イメージの回復がある。近年、国際社会で強圧的な姿勢を見せる中国に対して「国際システムへの挑戦者」というネガティブなイメージが広がった。南シナ海で人工埋め立て島を強引に建設し、アジア諸国だけではなく、欧米からの風当たりが強まるなか、今回の貢献策で中国がいかに平和を守る勢力であるかをアピールし、国際的な評価を向上させたいのだろう。
厳しい現場で経験を積み、経済力も増した中国は「人」「カネ」「実績」を武器に国連への関与を年々強めている。習主席は今回のサミットで10年間で総額10億ドル(約1200億円)の「中国・国連平和発展基金」を創設すると表明。中国主導の国連改革に乗り出した。
【PROFILE】1976年広島県生まれ。2003年、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科博士課程単位取得退学。米国防省のシンクタンクであるダニエル・イノウエ・アジア太平洋安全保障研究センター客員教授及び東西センター客員研究員を兼任。専門は現代中国の外交・安全保障政策、アジア太平洋の国際関係。
※SAPIO2016年1月号