【著者に訊け】樋口毅宏氏『ドルフィン・ソングを救え!』/マガジンハウス/1300円+税
〈愛があればオマージュ。なければただのパクリ〉
『民宿雪国』や『テロルのすべて』、『タモリ論』等々、樋口毅宏氏(44)の作風にも通じる、まさに至言だ。
「もしくは元ネタがバレると困るのがただのコピペ、逆にバレてくれないと困るのが、僕の小説ですね」
最新作『ドルフィン・ソングを救え!』では、その高い音楽性やファッション全てが若者から支持された伝説のユニット、その名もドルフィン・ソングが登場。彼らが実質1年半の活動に突然終止符を打ち、あろうことか殺人事件の被害者と加害者となって世間を驚かせた1991年当時、高校生だった主人公〈前島トリコ〉が、失意の中で自殺を図る2019年から、物語は始まる。
目が覚めるとそこはいつになく人気のない渋谷。なぜか大盛堂書店がマルイの隣にあってQフロントはない。テレビでは小渕恵三が「平成」と書いた紙を掲げていた……。こうして愛してやまなかったバンドが世に出る前の1989年1月にタイムスリップした45歳、結婚歴ナシ、フリーターの彼女は、事件を未然に阻止すべく、生き直しを図る!
通称フィンドルことドルフィン・ソング。ボーカルの〈島本田恋〉と、ギターの〈三沢夢二〉は、〈細身で可愛い顔をしていて、雰囲気もよく似ていた〉とあり、あの2人組を連想させる。
「というか、完全にフリッパーズ・ギターですよね。恋と夢二は『ラブ・アンド・ドリーム』だし、あ、このセリフはあの歌詞だなって、わかる人にはわかるはず。
とにかく解散当時、大学1年だった僕には、彼らの物語が突然断ち切られたことが物凄くショックだったんですよ。当初はそこまで熱心でもなかったんですが、『ロッキング・オン・ジャパン』の編集長だった山崎洋一郎さんの『次のロックの担い手である彼らが解散した損失は計り知れない』という物凄い熱量の文章に触発されて、解散後の2人を追いかけた。
ビートルズにしても解散も含めて一つの作品だったりするし、僕は『青春の終わりとは好きなバンドが解散することである』という考えなので」
また、タイムスリップもすでに多くの小説や映画でおなじみの装置ではあるが、注目は夢二が恋を刺殺し、死刑に処せられる現実を、トリコがそうではない現実に変えようとすることだ。