今年の日本の自動車マーケットは消費税8%に加え、軽自動車税の増税もあいまって、軽を含む乗用車は年間500万台を大きく割り込んだ。
各社、新興国マーケットに軸足を移している影響からか、日本向けの新モデル投入も昨年に引き続き低調であった。だが、そんな中でも目を引いたモデルもある。自動車ジャーナリストの井元康一郎氏に、2015年のベストカーTOP3を挙げてもらった。
●第1位/ロードスター(マツダ)
日本カー・オブ・ザ・イヤー2015-2016の大賞を受賞するなど、高く評価されているクルマ。私がこれを1位に推す理由は、秋に追加された「RS」が、ドライビングプレジャーの横溢する素晴らしい走り味を持っていたのに感銘を覚えたこと。
日本車は今や、自動車工学では世界のトップグループ。とくに品質管理のノウハウについては他を寄せ付けない。そのなかで弱点として残っているのは、高価格帯のビジネスが苦手なことと、運転そのものを楽しいと感じさせる味付けの部分だ。RSはその味付けの部分で、世界の名品と呼ばれるクルマたちの世界に一歩足を踏み入れつつあるモデルに仕上がっていた。
RSがノーマルと大きく異なるのは足回りとシート。足回りにはドイツのビルシュタインが設計した応答性の高いド・カルボン式のショックアブゾーバーが組みつけられ、ブレーキも大型化。シートは高機能シートの名門レカロ。開発はマツダとビルシュタイン、レカロ双方のエンジニアがコミュニケーションを密に取りながら行われたという。
たったこれだけのことで、RSはノーマルとまったく異なる走り味になった。コーナリングでステアリングを切ったときの精密なロール感は日本車離れしたもの。また、レカロシートは体の軸をしっかりと保持するような体圧分散設計がなされており、素晴らしいクルマの動きを体でそのまま感じ取ることができる。
エンジンはノーマルと同じ130psの1.5リットル直4。足回りが良くなったことでパワー不足に感じられるのではと思ったが、実際には逆で、安心感が高まったぶん、むしろパワフルに感じた。そういうクルマは別に猛然と飛ばしたりせずとも、クルマとの対話だけでいつまでも運転に飽きることなく走り続けることができるものだ。
進化の余地があるとすれば、コーナリングにおけるロールの角度と横Gの発生を正比例させるような味付けを徹底させることか。これができれば初めて走るワインディングでもスキーのパラレル滑降のように、文字通り体感だけで楽しく安全に走れるようになる。こういう味付けモデルが日本から出てきたことは、他の国産勢にも刺激を与え、全体のレベルを引き上げることにも貢献する可能性がある。その点でも賞讃に値するモデルだ。