FRBがインフレ指標として注視している、食品とエネルギーを除いた個人消費支出(PCE)のコアデフレーターは、2012年前半以降、約3年半近く、ずっと2%を下回っている。9月のコアデフレーターは1.3%と、8月と同じ数値で上昇する気配はまったくない。中国をはじめとする海外経済の減速が、ボディーブローのように効きはじめている可能性がある。インフレ率を見ると、引き締めよりも緩和が必要な状態といえる。

 また、政策当局が、さらなるドル高を望んでいない、という状況もある。イエレンFRB議長は、2015年3月から、ドル高の弊害として輸出の伸び悩みを挙げていた。また、国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事も、ドルが一段と上昇すれば、新興国を始めとした国々に著しい悪影響が及ぶ恐れがある、と警告している。いずれも、さらなるドル高は容認できないというスタンスだ。

 欧州中央銀行(ECB)が追加緩和をし、中国人民銀行は利下げを実施した。日銀も追加緩和を否定しない。このように、主要国の通貨安競争が再燃する可能性がある中、ドル独歩高につながる追加利上げには、FRBは慎重にならざるを得ない。
 
 したがって、FRBが金融引き締めに転じれば、日米の金利差が一方的に拡大していく、という現在のメインシナリオが実現する可能性は、実は低いのではないか。2015年半ばに付けた1ドル=125円台を、FRBの追加利上げによる日米金利差拡大をかなり織り込んだ水準と考えると、当面、利上げが1回に止まり、米政策金利の上昇に頭打ち感が浮上すれば、マーケットは大幅なシナリオの修正を迫られる。

 2016年前半は、ドルの下落リスクを念頭に置いておきたい。ドル円の予想レンジは1ドル=110~125円と見る。

※マネーポスト2016年新春号

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